“美しい”パッケージデザインとは——「販促会議5月号」より

パッケージのメディア特徴は購買に近いことだ。パッケージを見る人は、商品の購入をその場で検討している人である。それだけ、販売促進におけるパッケージデザインの役割は大きい。パッケージデザインを手掛けるアイ・コーポレーションの小川亮氏に、優れたパッケージを紹介してもらう。

ここでは、『販促会議』2013年5月号に掲載中の連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。


(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)

パッケージデザインの“美しさ”を大まかに分けると、装飾を極めた美しさとシンプルを極めた美しさに分かれる。アールヌーボーやアールデコの時代などはまさに装飾美の黄金時代であり、香水瓶などのパッケージデザインは、これらの時代の影響を受けているものが多い。現代の化粧品のパッケージデザインもこの流れを汲んでおり、装飾の美しさを生かしたものが多数見られる。また、コニャックやウィスキーなどの高級な洋酒にも、装飾性の高いパッケージデザインが多い。

歴史的には、こういった装飾的な美しさが、“シンプルイズビューティフル”という考えよりも先に評価された。その後、イギリスで産業革命が起こり、いわゆる「安かろう、悪かろう」の粗悪なデザインの商品が世の中にあふれ、職人の手仕事による装飾美を回顧する動きもあったが、結局そういった商品は価格も高いため、一部の人の趣味の域を出ないという現実に突き当たった。

しかしその後、ドイツにおいて、量産品にもデザイン性を持たせようという考え方が広まる。機能性を追求し、装飾や無駄を省いていくことで自然に醸し出される美しさ、すなわち「機能美」という価値観が確立されたのだ。これが現在の“シンプルイズベスト”や、シンプルなデザインを評価する考え方の源流となったと思われる。ドイツで確立されたこの「機能美」の考え方は、その後アメリカへと広がり、浸透していく。

オパールエッセンス

ジェルの容器として使われている注射器も、機能美を備えた“パッケージ”であると言える。

歴史についての話が長くなったが、今回紹介するアメリカ製品「オパールエッセンス ミントホワイトニングジェル」(Ultradent Products社)のパッケージは、まさに“シンプルイズビューティフル”を感じさせるデザインだ。

同商品のパッケージは、歯のホワイトニングに使うゼリー状の溶剤が入った注射器4本を入れるもので、必要な機能をすべて満たしながら、美しさを兼ね備えている。まず、注射器の1本1本が、パッケージ内で上下左右に動いてしまったり、注射器同士がぶつかったりすることのないようにしっかり固定して支える構造。そして、冷蔵庫で保管し、2~3カ月間毎日少量ずつ注射器から出してマウスピースに塗布する商品なので、長期的な保管にも対応できるように、開封後も注射器が独立するように設計されている。

また、注射器もパッケージもすべて透明で、溶剤の残量が一目で分かる点も機能的だ。円柱形でスリムなパッケージは、冷蔵庫の内ポケットにも入れやすい。このように、注射器4本を運び、保護するためだけのパッケージだが、無駄のない美しさが存在する。

「パッケージが美しいから売れるのか」。これは一概には言えないが、美しいパッケージには商品自体を魅力的に、より良い商品に見せる効果がある。また、自宅での保管中や使用中に隠す必要がないことも消費者にとってはメリットだ。何よりも美しいパッケージデザインは、見ていて楽しい。

小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。

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