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畠山侑子(大広 第1コミュニケーションデザイン局ブランドデザインセンター コピーライター・プランナー)
こんにちは。アドフェスト現地では「あのセクシーなMCは、私の後輩なのよ」という決め台詞でコネクションを広げていった大広の畠山侑子です。ヤングロータス日本代表として、アドフェストでの24時間コンペにシーズ広告の柴田悠香さんと参加し、シルバーを頂きました。
ヤングロータスとはアジア各国で予選を勝ち抜いた28歳以下のクリエイターが、アドフェスト現地で講義を受け、その場で出されるブリーフに対し24時間で企画を仕上げて頂点を決めるというコンテストです。2013年は、幹事代理店マッキャンワールドグループの講師陣のもと、15カ国からコピーライターとデザイナーのペアが参加。
そのドラマチックな日々を少しだけ紹介させて頂きます。
「つまらない」からはじまるストーリーテリング
「Boring(つまらない)」。
ヤングロータスでチェアーマンを務めたマッキャンエリクソン香港のスペンサー=ウォン氏がワークショップ内で最も多く口にした言葉です。我々が日々受けとるクリエーティブブリーフの9割は、つまらない。…君たちは普段ブリーフをもらったら何から始める?
「リサーチから始める byインドネシア」「自分自身の中にあるものを追求する by台湾」
若手たちが思い思いの答えを出す中、スペンサー氏が伝えたのはたった一言でした。
「Make it like a story to tell.」
伝えられていく物語のように企画せよ。良い広告は、沢山のことを語らずとも、多くの人々に気づかせ、語り合わせ、シェアさせ、バイラルさせる。
その言葉を聞いて最初に浮かんだのは、今年フィルム部門でグランデを受賞した”Dumb Ways to Die”。可愛いキャラたちがありとあらゆるまぬけな死に方を体現し、地下鉄構内での事故という最もまぬけな死に方の防止を訴えるムービー。世界中の人々がパロディ化したそうです。この広告のブリーフを勝手に想像するに「地下鉄事故防止のための広告」という、スペンサー氏のいう「つまらないブリーフ」だったのではないでしょうか。
「つまらないブリーフを手にしたら、全ての情報をインプットせよ。」「あとは、君がつくるキャンペーンがローンチされた時、ニュースでどう取り上げられるかを想像して、ストーリーを紡げ。」
この、Story-tellingこそが、今年のヤングロータスのキーワード。
3日間のワークショップを通して、Story-tellingの能力を高めるために必要なことをじっくりと学んでいけたと思っています。それも、世界で活躍する一流のStory-tellerたちから。
例えば、「裸の真実」の話。見えにくく、言いにくい真実は共通の信念を生み出しブランドとユーザーの絆に変革を起こす力をもっている。どうやって裸の真実を明らかにし、どう変革させるか?(紹介された事例:ルーマニア人の愛国心に火をつけるため、パッケージをアメリカ国旗に変えるドッキリを仕掛けたROMチョコのキャンペーン等)。
未来に向けてどうユーザーとエンゲージメントするか?(事例:散歩中の犬のフンを入れることで無線LANを利用できるようにしたPoo-Wifi等)。
どう自分自身をブランド化させるか?このパーソナルブランドのセッションでは、講師が突然若手全員を廊下に出し、「自分の情熱」について2人1組で語り合わせました。さらに「大切にしている信念」「達成したいゴール」などを各自グループになって語りあい発表。英語力に自信がなく他のセッションでは意見を出せていなかった私たちもこのセッションで多いにアジアの仲間と語り合いました。
裏ワークショップの存在
もうひとつ忘れてはいけないのが、“裏ワークショップ”。
大それたものではなく、講義と講義の間のコーヒーブレイクを私がそう名付けました。教室を一歩外にでると、温かいコーヒーと素敵なお菓子が用意してあり、若手たちはこぞって集まり、講義の内容や全く関係ないバカ話をします。クリエイティブの話はもちろん、文化の違い、経済問題、宗教観・・・それを語りあうことがアドフェストヤングロータスの醍醐味なのかもしれません。我々には違いが沢山ありましたが同じ部分も沢山ありました。だからこそ可能性のあるクリエイティブをともに作ることができるんだと感じました。
その夜、講師も若手も全員集合でのディナーの際、隣に座ったスペンサー氏に勇気を出して明日発表されるブリーフについて質問しました。
返ってきた答えは、一言だけ。「…So boring,」
まじめな日本女子、ランチも食べずに企画開始
あっという間に2日目。
ブリーフ発表の日とあって、前日とは違う緊張感が漂います。驚くべきことに、今回は2つのお題から多数決で1つに決めるという、なんとも今年のアドフェストらしい(今年からオーディエンス一般投票による賞が追加されました)、ドキドキの展開。
決まったお題は、
「クリエイティブの才能がある人材を探し出すためのマッキャン求人広告。」
スペンサー氏は、裸の真実、つまり、クライアントから頂くブリーフの9割はつまらないという真実をここぞとばかりに提示。そのクライアントが想像もしていなかったような夢と情熱あふれるストーリーで彼らに気づきを与える企画を作ってほしい。だからこそ、普段よく見る「boring」なブリーフをすることに決めたというのです。そして、我々がどれだけ耐えて、どれだけジャンプできるかをテストしたいというのです。さらに評価のポイントとなるのはワークショップの中で講師陣が提示した考え方をどれだけフルに活用できているかだ、と付け加えられました。
そして、12:00。各自の企画タイムがスタート。
面白いことに、ここでも国の違いが出ます。私たち東京チームはランチも食べずにすぐに調べ物にとりかかりました。まわりの皆が「まじめだねぇ」と声をかけては去っていきます。そう思われるのもしゃくなので、平然を装いランチを食べ、スペンサー氏を見つけてブリーフで感じた疑問点を荒い英語で質問しまくりました。1番疑問だった点は、マッキャンワールドグループ全体のリクルートなのか、それとも特定の国にセグメントしていいのか。どっちでもいいと言われました。この答えが、私たちを苦しめました。
残り4時間での決断
国をセグメントしてもいいという言葉を聞いた私たちは最初、育児を理由に社会復帰できない女性が多いという日本の問題に焦点をあて、その才能を深くしまいこんだ母親に向けた、眠った夢を叶えるキャンペーンを作り始めました。求人広告で社会に貢献するというアプローチ。ただ、真面目すぎるなとも思っていました。
…そして、プレゼン資料制作から20時間後。
最後まで迷っていたもう1個のアイデアの方がいいような気がしてきました。スペンサー氏に思い切って相談したところ、「君らが楽しめる方にしなよ」と。そして私は、パートナーであるデザイナーの柴田さんに懇願して、残り4時間で全く別のアイデアに変えることに。
(次ページヘ続く)