崖からとびおりる。
なんとか体裁を整えて、いざ全員が集まる大会議室へ。CDのカール。戦略プラナー。営業チーム。ゲストのGoogleの人たち。そして各国のクリエイター。30人近くが大きな机を囲んでいる。
ロジャーとジョナサンとノゾミが、イケイケ!と押してくれるので、崖から飛び降りる思いで、みんなの前に立つ。ひとつひとつのアイデアをボードに貼りつけながら話す。あがっていても無駄なことは言わないように。無駄なことをいう英語力もないのだが。シンプルに、このアイデアが今までの常識にどう挑戦しているかだけを話した。
一つの案を長く、ストーリー仕立てでおもしろく話すチームも多かったが、僕らのチームは案数がいちばん多かったので一案一案を短く話すしかない。カールはどんなアイデアも、うむ、うむ、とうなずきながら聴いてくれる。どんな小さな芽ものがさずにピックアップしようとしているようだ。ん?伝わってる感じがするぞ。すべってはいないぞ。
全チームの発表が終わった。CDと戦略プラナーと営業でまとめるとのこと。しばしコーヒーブレイクだ。活発に打合せしたあとだったからか、ランチのときとは違い、ロジャーとジョナサンと世間話を楽しくすることができた。トイレにいくときにCDのカールとすれちがうと「Good Job!」と声をかけてくれた。初めてのプレゼンにしては上出来だよ!という意味にきこえた。
My Poor English
1時間後、ミーティングルームに入って目を疑った。全部のアイデアが大きく3つに分けられていて、そのうち2つのグループのてっぺんに僕のコピーが貼られている。カールの「Good Job」は気遣ってくれただけじゃなかったのだ。このグループ分けを基に、あと2日アイデアを開発しようという指示があり、SWAT1日目の幕は閉じた。
カールが、ミーティング後に話しかけてくれた。「You are awesome! はじめての英語での発表なのに、いきなり君のアイデアで方向性が決まったね」。その後、僕は3日間のSWATを通じて、5つのアイデアをピックアップしてもらった。どれも余計なレトリックを使えない分だけ、アイデアがクリアになってよかったのではないかと思う。
日本で17年やってきた経験、ぜんぜん通用しないわけじゃない。英語はぜんぶ聞き取れなくて、勘を頼りに薄闇の中を走っている感覚だが、なんとかなるかもしれない。僕は、いつかネットで読んだある逸話を思い出していた。世界各国の学者が集まる国際学会で、ドイツ人の学者が、英語でこんな開会のあいさつをしたという。「みなさん、科学の世界の公用語は英語ではありません」。聴衆が怪訝な表情になる中、彼はこう続けた。「科学の世界の公用語は、ヘタな英語です。(Poor English) この会期中に皆さんが、ヘタな英語で活発な議論をされることを望みます」。考えてみれば、グローバルな広告は、ある意味Poor Englishでなければ、世界中の人が理解できるものにならない。
コピーライターのジョナサンと、このSWATのことをお互いブログに書き合う約束をした。彼も今頃、カナダで僕らのことを書いているはずである。あっちのブログでは、日本の僕らはどんなふうに書かれているだろうか。
【原田 朋「原田朋のCHIAT\DAY滞在記 ~リー・クロウの下で365日~」バックナンバー】