(司会は『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』の構成担当・山田祐規子氏)
本質を引きだす「質問力」とは?
――『佐藤可士和さん、仕事って楽しいですか?』はAmazonで1位を取るなど話題になっていますね。「何らかの形で課題を解決する人は皆クリエイター」「一流の経営者たちは『経営』という絵の具をつかって絵を描くクリエイター」というくだりが印象的でした。
佐藤可士和(以下 可士和):営業でも人事でもマーケティングでも、仕事をする人は皆、何かアイデアを出して前に進んでいかないといけないですよね。そのとき、自分の仕事を「クリエイティブなことだ」と思ってやっているかどうかがすごく重要なんです。
アイデアはクリエイターのものだけではありません。皆、生活の中で日々何らかのアイデアを出しています。今日の夕飯はこの料理を作ってみよう、と考えることだってアイデアです。誰でも、日々発想しながら、生活したり仕事したりしている。でも、普段はクリエイティブだと意識していない。それを一度意識すると、できることの選択肢は大きく広がりますよ。ユニクロの柳井(正)社長も、楽天の三木谷(浩史)社長も、経営に最も重要なのはクリエイティブだと、いつもおっしゃっています。
―― 本の中では「質問力こそコミュニケーション力だ」とも書かれていて、実際、若い頃に先輩方にたくさんの質問をしてきたということですが、「こんなことを聞いていいのだろうか?」といった躊躇はありませんでしたか。
可士和:これは重要な質問ですね。僕は質問をするのは、全然平気なんです。「こんな質問をしたら馬鹿だと思われるんじゃないか」「この立場でこんなこと聞けない」という恐怖心こそ、質問力を身につける上での最大の敵です。社会人になりたての頃はあまりに何も知らなくて、あらゆることを周りの人に聞きまくっていました。当時の博報堂の先輩の大貫卓也さんに「質問小僧」と言われたくらい(笑)。
―― そこからどんなことが得られましたか?
可士和:あらゆることを学びましたよ。印刷や撮影のことから、クライアントへの向き合い方まで。今では、クライアントにたくさんの質問をします。特に、皆がわかったつもりになっていることに対して、それって本当なんですか?というような質問はよくしますね。例えば「広告を作ってほしい」と依頼をされたら、「広告でモノが売れるんですか?」と聞き返してみる。一瞬「はぁ?」という空気が流れるけど、そこから「その前提でやっていたけど、実際売れてないね」ということがわかって、本質的な話し合いにつながったりする。いい質問は、本質をずばっと突くことができる。だから、質問するというのは実に面白いことなんですよ。
ブランドの設計者=ブランドアーキテクトとは
――『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版』では、5年前には影も形もなかった「ブランドアーキテクト」という言葉が、可士和さんのお仕事を説明するものとして出てきましたね。
可士和:それまで、なかなかぴったりくる言葉がなかったんです。近いのは「クリエイティブディレクター」だけれど、クリエイティブディレクションにもいろんなレイヤーがあるので、指す範囲が広すぎる。自分としてはブランディングをしているんだという意識がとても強いので、そこを指せる言葉はないかと考えていました。ブランドの構造を考えて、そこにイメージを立ち上げるのが今の僕の仕事です。だからブランドの設計者、という意味の「ブランドアーキテクト」という言葉はとてもしっくりきましたね。
佐藤悦子(以下 悦子):ユニクロのニューヨーク5番街店オープンのときに、現地のプレスの方が取材後に佐藤の仕事をそう表現してくれたんです。それまで「コミュニケーションのドクター(医者のように問診する)」といった言い方もしていましたが、もうコミュニケーションの側面に留まらなくなっていますし、ブランドのこれからの設計図を描くことができる、それが佐藤可士和の仕事の真骨頂だと思っています。
新しいクライアントとお仕事が始まるときには、まずストーリーを描きます。このプロジェクトを始めることで、その企業なりブランドがどういう変化をして、どんな商品が生まれ、社会的にどういう反響があって、目指すゴールイメージはこうなることです、と。
まずそれを、社内の方々に共有していただきます。社内でビジョンを共有していくことって、実はとても大変で。外に向けてプロジェクトを発表するのは、クライアントの社内にジャッジしてくださる方がいればスムーズに進むものですが、クライアントの社内が動かないと、発表はできてもそのあとが続かない。ですからインナーモチベーションを高め、ゴールイメージを共有するためのストーリーはとても重要です。次の10年20年、その会社がどこに向かうのか。コミュニケーションだけでなく、クライアントの組織の形も含めて提案させていただくなど、多方面からそのブランドについて設計していくことができる人、という意味で使っています。
可士和:いま一番求められているのは「何をやったらいいか」を考えること。「これをしてくれ」と具体的に言われることはほとんどありません。ユニクロでは、世界一になるために何をしたらいいかを考えてください、というオーダーを受けて、そのための設計図を引いています。
セブン-イレブンの仕事も、鈴木(敏文)会長から最初に言われたのは「セブン-イレブンをもっとよくしてほしい」ということです。今でも十分いいのだから、僕がすることはないんじゃないですか、ともお話したんですが、いやいや山のようにあると。コンビニではナンバーワンだけれども、まだまだ女性も来ていないし、高齢者も来ていない。そういう層にもっと的確なサービスや商品を提供していければ、売上げは倍にだってなると。そのために必要なことを考えて実現してほしいというお話でした。
それで何をしようと考えたときに、プライベートブランド(PB)の商品が目につきました。ちょうどコンビニのPB商品も注目されはじめていたくらいのタイミングで、これから伸びると目されていたジャンルでした。その商品自体をメディアにすることで、セブン−イレブンの価値をわかりやすく訴求していこうと、セブンプレミアムの大リニューアルを考えたんですね。
当時でも1300アイテム近くはありましたから、その全部を一人でリニューアルはできません。そのためのチームをカテゴリーごとに組み、マスタープランを作って、1300アイテムを一気リニューアルしていく方法も考えた。仕事の仕方をデザインしたというんでしょうか。その結果、おにぎりもお菓子も過去最高の利益を出すことができました。
2年目にはプロダクトを手がけ、先日は新たに1杯ごとに挽きたてのコーヒーをドリップして提供する「セブンカフェ」を発表するなど、それ以来仕事は続いています。
―― 悦子さん、マネージャーの立場からもこの仕事について解説いただけますか?
悦子:セブン&アイ・ホールディングスからご依頼されたお仕事だったので、最大のポイントは、セブン-イレブンとの方たちと“どうプロジェクトを進めていくか”から組み立てていったことでしょうか。プロジェクトが始まって半年くらいは、ほぼ毎週「ステアリングミーティング」という会議を開いていただきました。社長、副社長をはじめ、幹部の方々と佐藤、ときに私も参加する、全部で6人くらいの会議です。その超多忙な方々に時間を割いていただいて、今後セブン-イレブンが何をしていくべきかということをお聞きし、また質問をずばずばさせていただいて。それだけの小人数で密に話し合っていたからこそ、やるべきことの本質が見えた、成果を上げられたのだと思います。
(プロフィール)
佐藤可士和
1965年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。博報堂を経てサムライ設立。国立新美術館のシンボルマークとサイン計画、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン、グローブライド、今治タオルのクリエイティブディレクション、NTTドコモ「FOMA N702iD/N703iD」のプロダクトデザイン、明治学院大学のブランディングプロジェクト、「カップヌードルミュージアム」や「ふじようちえん」のトータルプロデュース等を手がける。ADC賞、毎日デザイン賞ほか受賞多数。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社)、『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』(日本経済新聞出版社)、『佐藤可士和さん、仕事って楽しいですか?』(宣伝会議)、『佐藤可士和の新しいルールづくり』(聞き手:齋藤孝/筑摩書房)など。
佐藤悦子
1969年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、株式会社博報堂の営業局、雑誌局を経て1998年より、外資系化粧品ブランド「クラランス」「ゲラン」のPRマネージャーを務める。2001年アートディレクター・佐藤可士和のマネージャーとしてサムライに参加。以来、大学や幼稚園のリニューアル、数々の企業のCIやブランディング、商品および店舗開発など、多方面に広がりを見せるサムライのクリエイティブにおいて、マネージメント&プロデュースを担当。アートディレクションの新しい可能性を提案し、世の中のあらゆるシーンを気持ちよく変えていくプロジェクトの一翼を担っている。2007年に男児を出産。働く女性のロールモデルとして、雑誌や講演会などでも活躍。著書に『「オトコらしくない」から、うまくいく』(清野由美氏との共著/日本経済新聞社)、『佐藤悦子の幸せ習慣』(講談社)、『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版』(誠文堂新光社)など。
人気アートディレクターである著者が、学生との一問一答を通じて、やさしく、わかりやすく、ズバッと答えます。月刊「ブレーン」での好評連載にオリジナルコンテンツを加えて書籍化。
定価:¥ 1,050 発売日:2012/12/25