<登壇者>
佐々木宏(シンガタ クリエイティブディレクター)
鈴木おさむ(放送作家)
長く続けることで生まれる効果
鈴木 テレビは「面白い」と思って始めたコーナーでも、話題のタレントが出ていても、結局は視聴率次第。視聴率が上がらなければ、すぐに変える傾向が強くなっています。本当は1週目はだめでも、2週、3週と続けていくうちに認知され、視聴率も上がってきたりするんですが。来週はまだ2%かもしれないけれど、その先、将来の5%に期待をかけて続けていくことにすごく勇気が求められますね。
佐々木 広告は基本的に短い期間しか流れませんが、僕は「とにかく10年続けよう」と言います。何か根拠があるわけではないのですが、実際に僕の仕事は長く続いているものが多くて、サントリー「BOSS」は矢沢永吉さんから早21年。宇宙人ジョーンズシリーズも丸7年です。宇宙人ジョーンズは開始当初はあまりウケず、でも、サントリーさんがもうちょっとやってみようと言ってくれたことが大きかったですね。ボスの翌年からはじまった「そうだ、京都 行こう。」ももう20年。ソフトバンクの白戸家ももうすぐ7年目ですが、当初は、相当な騒ぎを起こした犬のお父さんもいまでは当たり前になっている。長く続けたからこそ認知されるものって結構多いんです。だから、『スマスマ』が18年続いているのはすごいことです。
鈴木 『スマスマ」以前はゴールデンタイムでアイドルが冠番組をやることはほとんどありませんでした。当時、プロデューサーに言われたのが、ディスコが「クラブ」と呼ばれるようになったように、パッケージが変われば同じものでも全く新しいものに見える。SMAPでそれを考えてほしいということ。結果として、『スマスマ』はアイドルの枠組みや番組のつくり方を変えることになりました。
佐々木 新しいジャンルを作るという発想は、広告でもお手本にしたいことです。「変える」ときはガラリと大きく変えないと、新しいものは生まれない。トヨタ自動車「ReBORN」キャンペーンもまさにそうです。震災後の東北再生、日本再生にトップ企業トヨタの責任は重い!というプレッシャーをかけるプレゼンをしました。売れ行きではなく、こんな時代だからトヨタという企業こそがガラリと変わるところを見せたいと思いました。
鈴木 今日、佐々木さんとお話をして思ったのは、ものを見たときの感じ方や考え方が年齢を取るごとに広がっているから、いろんな発想ができるということ。例えば10代の頃、お墓を見ると「さびしい」と思っても、ある年齢になると「買わなくちゃ」と思うように、人間は年齢を重ねるごとにものの見方が確実に広がる。おそらく昔はお墓を買う年齢になると現場から引退していた人がほとんどだと思うのですが、いまはそんなことはないでしょう。北野たけしさんもそうだし、佐々木さんのような人が第一線にいる。僕はそういう先達は大好きなんですが、一方で焦りのようなものもありますね。その経験を、僕は20年後にしかできないのですから。
佐々木 広告界では僕より年上の先輩たちがまだまだいます。だから、僕も60歳になってもやめたくない。あと20年は生きて仕事をしないと、多分やり足りないんじゃないかな。いつまでたっても、もう広告はいいやという気持ちにならないと思います。でも、広告の仕事を続けていくためには、やはりテレビに頑張ってほしい。正月に鈴木さんがテリー伊藤さんたちと出演していたNHK『新春テレビ放談』を観て、ものすごく嬉しかったんですよ。テレビをもう一回構築し直そうとか、テレビはまだ可能性があると皆さんおしゃっていた。全く同感で、あの輪に入りたいと思っていました。
鈴木 佐々木さんがいまおっしゃったようにテレビの番組作りの基本は、見ている人たちに「あっちに行きたい」と思ってもらうこと。『お試しかっ!』で「帰れま10」というコーナーができたときも、スタッフやみんなでああいうゲームでコンパやりたい、この店で一番売れているのを当てたいと、見ている人に思ってもらいたかった。テレビはやはり憧れやそこに対する気持ちをつくることが大事だと思うんです。僕はいまでもそのことを意識しています。
佐々木 僕は面白いテレビ番組と同じくらい面白い広告でなければオンエアしてはいけない、という気持ちで広告をつくっています。同じテレビで流れるのだから、ライバルは、そして、お手本は、テレビ。だから、企画時にはいつも「『スマスマ』みたいにいきたい」とか「『ほこ×たて』な感じにしたい」とか話すんです。長く続いているテレビ番組のように、見るほどファンになっていく――。そんな人気番組のようにCMを作るのが理想です。もちろん広告ですから同時に企業のイメージアップや商品売り上げに貢献するなど、広告の好感度なども気にしつつですが。
鈴木 視聴率が厳しいと言われ続けているテレビですが、頑張れば20%台は取れそうな気がするし、まだ誰も見つけてないジャンルがあると思っています。だから、30%台が取れるバラエティを作ることが、僕の今の目標です。『家政婦のミタ』のようにドラマで30%が取れたのだから、バラエティだって不可能ではないと思っています。
佐々木 CM業界の人は、映画をやってみたい症候群があるようですが、ボクは圧倒的にテレビ番組をいつかはやりたい。憧れの鈴木おさむさんのおこぼれでいいから(笑)。どうしても映画をやれと言われたら、やってみたいのはあくまでもCMとしての映画。2時間のお笑いとか感動のストーリーがあって、最後に「サントリーオールド」とか商品カットが一言だけ入るような、そんな2時間CMをつくってみたい(笑)場合によっては、大好きな紅白歌合戦や、箱根駅伝や、NHKスペシャルのようなCMもつくってみたいし。これからも鈴木さんおさむさんのテレビ番組に負けないようなCMをつくり続けたいと思っています。
プロフィール
佐々木 宏
1954年生まれ。慶応大学卒。77年電通入社。新聞雑誌局、コピーライター、クリエーティブディレクターを経て、2003年シンガタ設立。SoftBankの「白戸家」など全キャンペーン、サントリー「BOSS」、3.11「歌のリレー」、トヨタ自動車「ReBORN」「ドラえもん」、JR東海「そうだ、京都 行こう。」
資生堂「UNO FOGBAR」、富士フイルム「お正月を写そう」ほか。
鈴木 おさむ
1972年生まれ。千葉県千倉町出身。19歳で放送作家デビュー。『SMAP×SMAP』『お試しかっ!』『ほこ×たて』など、多数のバラエティー番組の構成を担当。昨年末公開の映画「ワンピースフィルムゼット」では脚本を手がけた。その他、ドラマの脚本や小説の執筆、演劇の脚本・演出や、日産ソーシャルメディアプロジェクト「にっちゃん」編集長を務めるほか、AmebaスマホのCM(15パターン)も企画制作。ますます活動の幅を広げている。
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