昨年10月からの本コラムもいよいよ最終回です。コラム前半では具体的な各広告案件を事例として、それぞれプロデューサーとしてどのように関わったかに触れました。ニコニコ動画さんとの対談、新年抱負、アドタイ・デイズ登壇レポートなどのイベントを挟み、コラム後半では実際のプロジェクトやビジネス立ち上げの事例をもとに組織プロデュースの過程を紹介してきました。
これら各回のコラムを通し、現状の広告代理店におけるプロデュース業の内容やその可能性について自分なりに考察してきましたので、この最終回ではそれらをまとめてみようと思います。
まず、プロデューサーの立ち位置ですが、自分の経験上、他のスタッフとの関係性は「縦」ではなく「横」を意識することがスムーズな業務運営に繋がると思います。軸足の一方は各スタッフとの相談(細かくやりとりするのが吉です)に置きつつ、もう一方は案件全体について(整合性が取れているか、クライアントに価値を提供しているか、世間や社会とブリッジするか等)気を配ります。
そのスタンスに立つと、プロデューサーは必然的に「ゆだねる」場面が多く出てきます。ある程度のフェーズになった段階で社内外の関係者(それぞれのスペシャリスト)にゆだねていくのはもちろん、最終的な案件の成否は生活者にゆだねることとなります。
ですので、ゆだねる前提で物事を組み立てるよう意識しています。案件関係者とは、施策の方向感やゴールを共有していることが大切で、これが不十分だと苦労することが多いです。また、生活者について、世の中の流れを意識しておくことが大切で、どんな話題を提示したらどういった反応が返ってくるか、常に想定しておくと成功の確率が上がると思います。いずれにせよ、「ゆだねる」ことは、明確な指針を「示す」ことと常にセットです。
そして、このようなプロデュース業務は、自然と広告案件以外にも領域を拡げやすいと感じています。
そもそも広告代理店における通常業務として、マーケティングの一環として広告ソリューションを提供している一方で、クライアントの商品開発の段階から関与できる機会も少なくありません。その際、商品自体が広告的に機能するよう、商品を構成する要素の一部に、話題性や利便性などを予め埋め込んでおくこと(を提案すること)もできます。
もしくは、広告施策を開発する際に、エンタメコンテンツとタイアップすることも多々ありますが、その際もエンタメ自体が広告・マーケティング的に機能するようなアプローチ(ブランデッド・エンタテインメント)も有力です。あるいは広告施策自体にメディアに取り上げられやすい要素を入れておくPR的アプローチなど、領域の拡張と統合の例は枚挙にいとまがなく、もはや日常となってきた感があります。
そのような拡張と統合が繰り返される中で、プロデューサーの役回りとして、クライアント業務だけではなく、プロジェクトやビジネスについても同様にプロデュースしていくのは自然な流れであるように感じます。
(ちなみに新年抱負の回では、Adverprise(Advertise+Enterprise)といった造語も出してみました)
プロジェクトやビジネスの立ち上げについては、(当然色々なやり方はあると思いますが)まずは現業とのシナジーを念頭に置いて考えるのが(経験上)無理がないと思っています。
日々の業務で生まれては消えるアイデア群や、出会う社内外の方々、そんな情報ネットワークの波の中から、鈍く光るアイデアの原石や、熱量の高いキーパーソンが印象に残ることがあります。そういった個々の点を記憶しておくと、ふとしたタイミングで現業とシナジーして、プロジェクト/ビジネスを発足できるきっかけがやってくるものです。
イチから立ち上げるより確度がありますし、発足後の影響力(分かりやすさや説得力)も増します。
また、発足させるプロジェクトやビジネスの具体的な中身ですが、まずは(当然ですが)現業である広告業の武器となるようなプロジェクトや、あるいは広告開発と近い領域のビジネス(エンターテインメント、コンテンツ開発、Web/モバイル領域など)が比較的に取り組みやすいと思います。
(※実際、自分が今年発足に関与した3プロジェクト、放送作家が広告・PR施策を開発する「Cha-noma」、サブカルチャーとテクノロジーを活用してコンテンツデザインする「PROTO_CUL」、Facebookメッセージでスタンプが送れるiPhoneアプリ「スタンプメッセンジャー」、すべて上記に当てはまっています)
そういった取り組みがうまくいった暁には、次のステップとしてモノづくり領域にもチャレンジできると思います(し、また実際にしてみたく、すべきだとも思います)。
以上、具体事例と自分の経験を交えて書いてきた本コラムの内容を、今回ざっとまとめてみましたが、改めて感じたことは、広告代理店が既に保有している様々な情報ネットワーク資産やエージェント機能を把握し、可視化させ、シナジーさせ増幅させていくことは、プロデューサーとして最も大切な職務だということです。
(もしくは、エージェンシーにおけるプロデューサーをそのように捉えたい、ということかもしれません)
また広告領域ではそのような動きも当然となる中、むしろ広告以外の領域でそのような取り組みに注力していくことで、次世代エージェンシーの1つの形が見えてくるかもしれません。
即ち、ビジネスエージェンシーとして(当該ビジネスに関与する)各ステークホルダーを取りまとめ、そのビジネスプロジェクトをプロデュースしていく姿です。それは、多様なtoB(クライアント)とtoC(メディアを通して)両方にアプローチできるネットワークを最大限に活用することで、具現化できるのではないでしょうか。
そのようなことへチャレンジしていくことで、軸足のひとつを広告業界に置きつつも、もうひとつの軸足をエージェンシービジネスに振り向ける準備をいまからしていく必要があると思います。ひとつの会社が業態変容するには時間が掛かりますが、それを迫る波はもうすぐそこです。他業界に目を向けると、当初の領域から拡張したりシフトしたりしている企業が数多くあります(例えば、ビールメーカーの総合酒類化へのシフト、家電メーカーの主戦場の移り変わり、テレビ業界の総合エンタメビジネス化、流通業界におけるPB商品の増加などなど)。
どんな業界も環境変化の影響は受けます。広告業界が受けている影響は現状、表層的にはメディアの多様化/デジタル化が主だと思われますが、今後クライアントのマーケティングの質が根本的に変容していくことで、(広告業界にとって)さらに大きなインパクトが来るかもしれません。それを予見して準備しておくことが大切だと思います。
最後に、自分がこのようなプロデュース活動に取り組めていることはとてもラッキーであり、本当に幸せなことだと思います。しかしながら、自分のモチベーションがまずベースにあり、それが無ければ、仮にこのような環境下におかれても何の成果を残すこともできず、業務に喜びも感じなかったと思います。
ですので、もし本コラムに共感してくださって「自分もそのようなことに挑戦したい」というモチベーションがある方がいらっしゃれば、「ぜひチャレンジしてください!」という気持ちでいっぱいですし、そういった方とお話ししてみたく、また業界全体としてそういった機運が高まればいいな、と思います。
そして、このような良い環境の中で思い切りやらせてもらえたことに対し、改めて、会社に本当に感謝していますし、それぞれのプロジェクトで多大なお力添えを頂いた社内外のみなさまに本当にお世話になりました。ありがとうございました。
巻末になりましたが、このような貴重な機会を提供していただき、またコラムの予定や内容の変更にもお付き合いいただき、はたまた本コラムのテーマ設定や毎回のコラム記事に有益なアドバイスをしていただいた宣伝会議の谷口編集長に厚く御礼申し上げます。
それでは、「エージェンシーの価値をプロデュースする」というテーマに対して、何らか次のステップを踏めた際には、(それが紹介するに値する内容でしたら)是非また記事を書いてみたいと思います。最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました!
※連載「33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。