バカバカしいことをリアルに本気でつくる
そのときスタッフの目に留まったのが、今年1月にNHKスペシャルで放映され、ネット上で話題を集めたダイオウイカだ。世界最大級、体長18mにも及ぶイカを釣って、お店で天ぷらを販売したら……。うそとはいえ、うどん店が発信するに相応しい話題だった。「ただし“ダイオウイカ釣りました”というニュースだけでは、“流行に乗った企画”で終わってしまいます。興味を持ってサイトを訪れた人たちに、もう一歩踏み込んで楽しんでもらうことが大事。“そこまでやるのか!”と思わずツッコミを入れたくなるよう、サイトは細部まで徹底して作り込みました」(小林麻衣子さん)。
そのひとつが「イカす!」ボタンだ。いわゆる「いいね!」ボタンだが、5回に1回は押したときにメッセージが出てくる仕掛けに。そして、「実物大ダイオウイカ鮮度ビューワ」。イカの体の一部を見ることができる機能だが、これもきちんと実物大、18m分を制作している。特設サイトのソースを表示すると、そこにはイカのアスキーアートも登場。さらに、この企画を象徴する「ダイオウイカ天」のビジュアルは、大きいサイズのイカに衣をつけて実際に天ぷらとして揚げたものを撮影――等々。「本来ならどうでもいいことだけれど、発見した人はとてつもなく面白がってくれる」(インタラクティブプロデューサー 大垣裕美さん)仕掛けを細かくつくりこんだ。
その際に気を付けたのは、「コアな人たちだけにウケるのではなく、若い女性も面白がってくれるポイントを入れること」。例えばソースは通常コアな人たちがチェックするポイント。しかし、そこに「ダイオウイカ天下さい」とカウンターに立つイカの、かわいいアスキーアートを入れたことで、キャプチャーされた画像はリツイートされ続け、最終的に10万PV近い効果が得られたという。
「ダイオウイカ天」は、ツイッターで5000件を超えるリツイートがあり、はなまるうどんのサイトへのアクセス数は1日で10万PVを超えた。その効果は、それだけにとどまらなかった。翌日から週末にかけてテレビの情報番組や新聞、ネットニュースでも大きく紹介され、それらを広告換算すると1億6000万円を超える。
また昨年の反省も踏まえ、店頭でも保険証割引の告知をしたことで、利用率が昨年に比べて上昇。これまで足を運んだことがない新規客を店に呼び込むことができた。「何よりも大きな効果は、はなまるうどんのブランディングにつながったこと」とクリエイティブディレクター 是永聡さんは話す。「保険証割引を最初に発表したとき、ネガティブな意見もありました。もちろんこうした意見が来ることは予測していましたが、レタスサンプリングやダイオウイカ天を実施した後、ネガティブな意見をフォローし、応援してくれる人が登場しました」。
キャンペーン開始直後から、店頭の売上げは100%を超える日が続いた。「はなまるうどんに初めて行った」、「はなまる行ってくる」といった声がツイッターで増え、「“ちょっとトホホだけどいいやつ”というはなまるうどんのキャラクターが認知され、ファンが増えた結果だと感じています」(是永さん)。売上げが120%に達した日もある。「値引きサービス」だけでは実現できない「100%」という数字が、まさにそのことを証明している。