加藤 私は3年間、審査に参加させていただいたのですが、その際に一番感じたのは、入賞したパッケージは特にアイデアが明確である、ということです。作品集が完成し、審査結果をあらためて振り返ってみると、自分は無意識のうちに「アイデアがある」ものを評価していたのだとわかりました。
判断する際に基準になったのは、見た瞬間にわかる独創的なアイデアがあること。そして、その商品にとって一番大切な要素をシンプルにわかりやすく伝えていること。英語があまり得意ではない自分にとって、「見た瞬間にわかる」というビジュアルコミュニケーションの力がパッケージにとって非常に重要であることをあらためて実感した次第です。私が最高点をつけたのは、プラチナを受賞したカザフスタンの長靴のパッケージ(4)。水の中をイメージしたビジュアルはきちんと機能を伝えながら、店頭で見たときに驚きがある。まさにアイデアの塊で、他のブランドには真似ができない取り組みです。
以前はパッケージで良いものの多くはアメリカやイギリスに見られました。でも、いまやアイデア、デザイン、そして技術に差が無くなり、さまざまな国で面白いパッケージが生まれています。最近、ペントアワードで応募数が増えてきているのがブラジルや中国ですが、韓国やタイ、台湾からも面白いパッケージが多く届いていました。中には、日本は追い越されてしまったなと思うものもありました。今後、アジア各国のデザインのレベルはますます上がっていくでしょう。市場も日本だけではなくなり、世界のブランドとの競争が始まったときに、日本のパッケージに何が必要なのかといえば、日本らしいアイデア。奇抜で目立つアイデアではなく、日本らしいアイデンティティをきちんと表現したアイデア、どの国の人が見てもわかる普遍的なアイデアではないでしょうか。日本のいまの市場でそれを実現していくのは難しいかもしれませんが、いままさにデザイナーもデザインを教育している人も考える時期に来ているように思います。
キャロン パッケージデザイナーは、さまざまなデザイナーの中で最も難しく、複雑な仕事をしている人と、私はとらえています。クリエイティビティはもちろん、それを発揮する素地として自国の文化や伝統、色やイメージをきちんと把握しておく必要がある。さらに素材も知らなくてはいけないし、書体や印刷の知識も必要です。そうしたものを身につけた上で、素晴らしいパッケージを生み出しているにもかかわらず、あまり表に出る人はいません。PENTAWARDSとしては、そういうデザイナーの存在をもっと世の中の人たちにも知ってほしい。そして、ブランドが成功する背景にはこうしたデザインがあることも多くの企業に知ってほしいと思います。