事件発覚から企業の対応公表までの時間がほぼゼロ状態に突入!
日本IR協議会の中・小型株企業部会でソーシャルメディアリスクに関する対応について講演する機会をいただいた。昨今、インターネット上のソーシャルメディアにおいて気がつけば一瞬のうちに風評化してしまうリスクに企業がどのように対応すべきかに応える要望での講演となった。
2000年12月の日経ビジネス(年末年始合併号)で、筆者が雪印集団食中毒事件(2000年6月)以降、「風評は3日で発生し、企業危機となる」を発表し、多くの企業が震撼した。当時の風評の柱となっていた2ちゃんねるの書き込みを背景としたものだった。
その後、ブログの台頭によって2005年以降には、風評は「炎上」という形でさらに拡大し、3時間で「危機」を迎えることになる。
そして今、ソーシャルメディアは飛躍的に進化し、3分で「危機」が到来する時代に突入している。
2012年12月にマクロミル社によって「インターネットの利用動向に関する調査」(国内15歳~69歳までの2172人を対象)が実施され、90%以上の人が、ツイッター、フェイスブックなどの主要なソーシャルメディアを知っているとし、フェイスブックは約3人に1人、ツイッターは約4人に1人、ミクシィは約5人に1人の割合で使用されており、スマートフォンユーザーに限れば、利用割合は5割程度で、ソーシャルメディアは既に社会に浸透しているとの結論を示した。
調査の背景には、インターネット上での従業員の失言などがきっかけで、非難が一気に拡大する「ネット炎上」について、企業におけるインターネット上の風評リスクとして見逃せない危機に発展する現状を踏まえてのものだった。
ソーシャルメディアは、不特定多数に情報を発信できる機能を前提にしており、同時にその発信情報に呼応して、他の人物が自身の賛否の意見を「参加」することで表明できることにある。
所属組織(会社名や部署)、立場(役職や仕事の内容)を公開し、一方で専門的なメディアトレーニングを受けたことがない者が、著作権、法律上の問題への配慮、歴史的背景や人権、さらに中立性への配慮などに欠ける発言を展開すれば、当然に賛否の意見は加熱し、さらに「反感」が連鎖することで、「炎上」という現象が一気に発生する。これが、インターネット上に流通する起爆剤となる。
ソーシャルメディア上では、ある人の発言を拡大させようと思う場合、ツイッターでは「リツイート」、フェイスブックでは「シェア」機能を用いて、タッチ一つで拡散することができる。しかも、十分に吟味された友人・知人から送付されたリツイートやシェア情報は、相互に信頼関係が厚く、さらにそれらの機能を使って他の友人・知人に拡散される可能性が高い。
ループス・コミュニケーションズの福田浩至氏によれば、「企業の時間軸」では、トラブル発生から、状況を把握し、事実確認、危機管理体制を整備した後に、第1稿のリリースを発信するのが通例とし、一方、「生活者の時間軸」では、瞬時のうちに反応し、瞬く間に伝播が開始されると解説した。また、その一例では、2012年4月22日2時15分に発生した「三井化学大竹工場爆発事故」を以下のように紹介している。
① 深夜にもかかわらず爆発1分後にはツイッターで「何かすごい音がした」との発信
② 5分後には2ちゃんねるのスレッドが立ち、さまざまな憶測が飛び交う
③ 1時間後にはYahooニュースや朝日新聞デジタルなどのメジャーなニュースサイトが、事故の第1報を知らせる
④ 事故発生直後から周辺の状況はビデオで撮影されており、後にユーチューブにも投稿される
福田氏のいう「生活者の時間軸」に沿う形で企業が情報を提供する必要があるのであれば、それは企業が模索しながらも採用しはじめているソーシャルメディア管理者が行う広報活動である。企業側がツイッターやフェイスブックアカウントを利用して、「生活者の時間軸」と「企業の時間軸」のギャップを埋める戦略である。
事件や事故の直後に「●●に関するお問い合わせが集中しておりますが、現在事実関係を調査中です」など、ただちにアカウントを通じて発信を行い、企業の説明責任を果たす姿勢を鮮明にする意図がある。
こうした対応を速やかに行うためには、ソーシャルメディア管理者の経験や知識が必要なだけでなく、平時からの風評監視が不可欠であり、また、風評のボリュームに対する感度が重要である。
事実無根のひどい書き込みが仮に1件しかなく、拡散の可能性がないのであれば、企業として対応する必要はないが、影響度の高いソーシャルメディアの複数で拡散が始まりかけているのであれば、まさにその瞬間対応を行わなければ手遅れとなる。
風評の消火活動のポイントは、通常の不祥事対応と同じく、噂・憶測の排除、事実確認、原因究明、責任の所在、再発防止策などであるが、その対処方法は重要である。
2ちゃんねるなどの匿名掲示板やツイッター、フェイスブックのアカウント上で、企業としての反論を展開するのではなく、企業のホームページ(ウェブページ)に正式な告知を行い、そのURLを各インターネット上のサイトに企業のウェブページをリンクする形式でコメントすることが望ましい。