(1)業界の常識と反対のことを「面白化」してやってみる
まず前提として、「戦略」という言葉はビジネスでよく使われますが、「どう戦うか」という意味合いで語られることも少なくないようです。本稿では「戦いを略すためのアイデア」という意味で使っていきます。
「戦いを略すためのアイデア」としては、領域を絞る「専門化」が典型の一つですが、本の場合は、「製品と価格」に差がつけられない上、「品揃え」といっても流通している本は大手ネット書店で「自動販売機」的に手に入れることができてしまいます。したがって、たとえ専門的なコンテンツをつくったとしても、そこで情報を得て、あとは送料のかからない大手ネット書店で買う、という買われ方をされてしまいやすい側面もあります。
そもそも大手ネット書店が提供する価値は何かと考えると、「買い物にかかるコストの最小化」です。コストといってもお金だけではありません。コストには5種類あって、経済的コスト(お金)、時間的コスト(時間)、肉体的コスト(手間・労力)、頭脳的コスト(考えること)、精神的コスト(気を遣うこと)、これらすべてがコストになります。
大手ネット書店は、「送料無料(お金かからない)・翌日配達(時間かからない)・ワンクリック(手間かからない)・シンプルなページ(考えなくて済む)・いつもの安心感(不安なし)」という価値を提供しているわけです。そして、これが本ジャンルのECの「常識」となっています。
戦いを略すためには、この常識とは反対のことをします。「いろんなコストがかかるけど【こっちのほうが楽しい】」という価値を生み出すのが反対側の道になります。「コミコミスタジオ」の場合は、「オリジナルの特典」と「コミュニティ」をつくることで【こっちのほうが楽しい】を実現しているといえます。
(2)強みを活かせていない施策はやめる
利益の源泉になるのは「強み」です。強みというのは、「ほかの人がやるより自分がやったほうがコストをかけずにできてしまうこと、または大きなメリットを生み出せること」です。
送料を無料にすることは、規模のメリットを有するプレイヤーからすると「強み」に基づく施策ですが、そうでないプレイヤーにとっては単なる「利益減らし」にほかならないので、商売を長続きさせるためにはすぐにやめたほうがよいことになります。
内藤社長は「強み」というものについて研究をした結果、自社の強みが「作家との関係が良好なこと」と「ボーイズラブが大好きなスタッフが大勢いること」だと理解します。これを最大限に活かすアイデアを考え抜いて、各施策が生まれていったわけです。
(3)お客さん同士がつながれる場をつくる
「自動販売機」では売っていないものの一つが「コミュニティ」です。
コミュニティには大きく3種類あります。「人(リーダー的存在)につながっているコミュニティ」「メンバー同士がつながっているコミュニティ」「コンセプトにつながっているコミュニティ」です。
「コミコミスタジオ」の場合は、内藤社長とソーシャルメディア担当者が中心になり、作家を招いたイベントなどを交えつつ、お客さん同士がつながれる場づくりを進めていっています。
ボーイズラブのファンというのは、同好の士としか話題にしにくい側面もあるため、横のつながりができることの価値はより大きいのかもしれません。
ただ、社会のつながりが希薄になってきていると言われる現在、「居心地のよい場所を提供してくれる」というのは、それを求める人にとっては極めて大きな価値創造といってもよさそうです。その価値を提供してくれる「お店(リーダー的存在)」に、だんだん多くの人が集まっていくのです。
※この連載では、「EC温故知新」というテーマで、「自動販売機型のネットショップにはできない売り方」でお客さんを魅了する事例などを中心に紹介していきます。
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