『あまちゃん』制作発表の場で、脚本の宮藤官九郎は、「架空のアイドルがいて、電車を貸し切ってイベントをやっていて、全国から人が来ている。既にドラマが始まっていた」と語っている。
鉄道むすめに全国のアニメファンが集結
そう言わしめたのは、ドラマで北三陸鉄道として登場する三陸鉄道(通称・三鉄)の取り組みだ。2008年、大手玩具メーカーがつくった鉄道むすめ「久慈ありす」が人気になり、三鉄得意の企画列車「スイーツ列車」を応用し、「久慈ありすをイメージしたスイーツ列車」を企画したところ、全国からファンが殺到。コミケ、萌え市場とはどのようなものかを研究し、その市場性にかけた。今では、久慈ありすのほか、田野畑ユウ、恋し浜レンなど「鉄道ダンシ」も開発し、イオンとのコラボ商品のパッケージに使われるなどして人気を博している。
「私は鉄道屋なのか、イベント屋なのか分からないと思うほどです」と久慈駅長の橋上和司氏が笑うほど企画列車も多い。ドラマに登場するお座敷列車の元となったこたつ列車のほか、落語、初日の出、カラオケ、お絵かきなど、多い時には週1回のペースで企画ものを運行してきた。「お金をかけて広報する余裕はない。どんな些細なことでも単発でもいいから、ネタをつくって発信していくことが大事」と考えるからだ。
応援隊長は、元広告会社の東北支社長
その取り組みを支援する強力な助っ人もいる。「三陸鉄道を勝手に応援する会」会長の草野悟氏だ。大手広告会社で東北支社長を歴任し、大型地域イベントなどを手がけてきた草野氏にとって、岩手は仕事上の故郷のようなもの。友人が三鉄の社長に就任したことをきっかけに“勝手に応援する会”をつくった。「岩手の重要な資源である三鉄をPRすることで、過疎化が進む沿岸部の活性化につなげよう」と考えたからだ。話題発信力に乏しい三鉄や、さらには沿線一帯の話題喚起のため、駅ごとに「動物駅員」を寄贈したり、三鉄社員にリリースの書き方やメディアへの対応方法を指導してきた。
震災直後には、会社の存続危機に怯える三鉄社員のため、社員によるオーダーメイドの被災地案内を企画。今後の災害に役立たせることを目的に、研究者などを乗せて列車を走らせた。
草野氏は『あまちゃん』のロケ支援には関わっていないながら喜んで放送を見ている、と話す。一方で危機感もある。震災後の復旧が終わり三鉄が全線開通する来年4月は、震災から3年、三鉄開通30周年の節目でもある。「メディアが北三陸に押し寄せる最後のチャンス。5、6年は復興支援で廃線を免れても、赤字が続けばどうなるか分からない。『あまちゃん』効果を使い倒すのはもちろん、今のうちに地域の魅力発掘・話題化に取り組み、今後も来てくれる“交流人口”によるまちの生き残りにつなげたい」と考えている。
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