全広連60周年の青森大会の目玉は、大手広告主でブランドや宣伝・制作を統括する5人によるパネルディスカッション。中央大学ビジネススクール・田中洋教授が広告市場の予測と今後起こりうるメディア環境変化について解説したのち、各社の事例がそれぞれ紹介されました。パネリスト同士の質疑も行われ、2時間にわたる密度の濃い議論が繰り広げられました。第1回は、田中教授による基調講演と、トヨタマーケティングジャパン・河本二郎氏の話を中心に紹介します。
▽パネリスト
- トヨタマーケティングジャパン・河本二郎氏
- サントリービジネスエキスパート・久保田和昌氏
- 味の素・島崎紘而氏
- 資生堂・ズナイデン房子氏
- 大和ハウス工業・山本 誠氏
▽モデレーター
- 中央大学ビジネススクール教授・田中 洋氏
【基調講演】進む「メディア分化」――田中洋・中央大学ビジネススクール教授
2020年の広告費、8~9兆に伸長見込み
《コーディネーター》田中 洋氏
電通マーケティングディレクター、法政大学教授、
コロンビア大学客員研究員などを経て中央大学
ビジネススクール教授。日本マーケティング学
会副会長。日本広告学会賞、中央大学学術研
究奨励賞、東京広告協会白川忍賞受賞。
経済産業省がまとめた景気予測シナリオをもとに日本の広告費の推移を予測したところ、2020年の広告費は慎重に見積もって7兆7000億円、成長軌道に乗ったとして8兆9000億円程度に伸長すると見込んでいます。これは11年度(5兆7096億円、電通調べ)の1.5倍ほどで、うちインターネットは2.24倍、マスメディアは1.54倍になると試算しています。
メディアの将来のあり方を占うキーワードは「Media disintegration(メディア分化)」。デバイス、コンテンツ、プラットフォームの3つの要素がより自由に結合して、新しいメディア環境を形成することを指します。コンテンツだけを見ても、ビデオオンデマンド、ユーチューブ、インターネットラジオなど、著作権に縛られながらも、さまざまな形で流通が広がっています。もはやデバイスやプラットフォームを問わなくなりました。
今や1億5000万人が使うLINEは、スマートフォンというデバイスを選び、強力なプラットフォームになろうとしています。プラットフォームがデバイスを選ぶメディアが出現したのです。ある薄型テレビの検索画面には広告が掲載されています。デバイスが広告メディアとなり、コンテンツを自由に編集したり選択したりして、テレビ局とは関係なしに広告を掲載できるようになってきました。
メディアはメディア会社の占有物ではなくなった
メディア分化の結果、視聴スタイルは多様化します。マス視聴のスタイルは減少し、個人がパソコンやスマホなどさまざまなデバイスを使い、自由な場所で視聴するようになるでしょう。
一方で、企業が自社のソーシャルメディアに宣伝費をつけたり、コンビニエンスストア(CVS)が店頭広告媒体と連動したパッケージ広告を販売したり、もはやメディアはメディア会社の専有物ではなくなりつつあります。
しかし、このような変化が起きているからといって、従来のメディアがすぐに衰退するわけではありません。もっとも強調したいのは、それぞれのメディアの役割がより“先鋭化”して、メディアの3要素の体系が変化してくるということです。
広告は、プラットフォームによって、どのデバイスに乗り、どのコンテンツとともに配信するか、という考え方にシフトし、各ビジネモデルに最適な個別目的対応型のコミュニケーションの開発が求められるようになります。
LINEのスタンプギフトのように、コンテンツが勝手に走り回り、顧客のアテンションをゲットする“自走”型コンテンツの開発も活発になるはずです。違和感を持たせ、コミュニケーションのフックとなるようなマスメディア広告といった、エンゲージメント発想の広告クリエイティブ開発もあるでしょう。従来とは違うクリエイティブの発想が今後、ますます求められると考えています。
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