その仕組みは次のようなものだ。通常、炭素14の大気中の量は、宇宙線が作り出す割合と光合成によって吸収される割合によって決まる。しかし、1952年や1962年、地球上のあちこちで爆発実験が行われたとき、大気中の炭素14の量は通常の約2倍に増えた。植物が余剰分を吸収したことにより、そのときから量は急速に減り、さらにその減少は、かつての均衡を取り戻すまで続く。この「原爆曲線(Bomb Curve)」をみると、年ごとの炭素14の変化が著しく、近年のサンプル(標本)の炭素14を調べることで年代を特定することができるという。
ウノ博士らは、この仮説を確かめるべく、加速器質量分析という非常に繊細な方法を用いて1905年から2008年まで、年代がわかっている29の標本の炭素14の含有状況を調べた。その結果、1955年以降に育った細胞には、炭素14が集中しており、ほぼ原爆曲線と非常に近い曲線を描いて一致した。つまり、炭素14を調べることで、象牙の年代を特定できるということになる。
この方法を象牙の密貿易の抑止のために用いるうえで残された課題は資金だ。この方法には、1標本当たり1000ドルの費用がかかるため、経済的に豊かでない国では、その方法を好まない可能性がある。しかし、象牙の違法な取引が武装勢力の資金源となって、ウガンダやコンゴの内戦を長引かせ、その影響で健全な経済発展が阻まれ、難民支援や国連軍を派遣しなければならない、そのコストを考えれば、それはけっして高くないはずだ。