ネット選挙運動は、有権者同士のコミュニケーションを生み出してこそ価値がある
「なぜ、ネット選挙運動を解禁したのか」――各政党が展開しているネット選挙戦を観察しているとそのような問いが頭から離れない2週間でした。ネット選挙運動は、一方的に有権者を説得するのではなく、候補者と有権者の双方向型のコミュニケーションを活性化させるのが解禁の趣旨のはずです。解禁によって、有権者と政治家との距離は縮み、有権者は何を望んでいるのか、そして政治家が何を考えているのかがよく見えてくるはずでした。
そのような期待は今回の参院選で満たされていると言えるのでしょうか。毎日新聞が行ったツイッター分析によると、候補者のツイッターのほとんどは「演説告示」でした。つぶやきは、「演説」、「選挙」、「駅」、「街頭」などの単語が多用されています。当然ながら、誹謗中傷される危険性は少なくなりましたが、果たしてそれで本来の目的を果たしていると言えるのでしょうか。
さらに、各SNSの中でも、より濃厚な情報提供が可能と言われていた「ライン」でも、街頭遊説のお知らせ、いわゆる「案内型」の情報ばかりが並びます。ラインでは、複数の政党や候補者のアカウントを登録していくと、一日何回も送られてくることから着信の音が絶えません。例えば、ラインにもっとも力を入れている公明党の場合、18日だけで合計8回の案内が送られてきました。日本維新の会は4回、民主党は3回でしたが、与党の自民党は15日に2回送られてきたのが最後です(19日午前中現在)。フェイスブックを見ても、演説遊説の日程と「私たち、こんなに頑張っています!」という自己アピールの写真がほとんどです。どこにも有権者とコミュニケーションしている場面が見当たらないのです。
これはまさに、ネットは候補者にとって宣伝の道具の一つに過ぎなかったことを示しているのではないでしょうか。「誹謗中傷が心配だ」、「なりすましが心配だ」と騒いだのは、有権者の口を塞ぐ効果を発揮したことになります。ネットリテラシーが高いと言われている、慶應の学生もネット発信に躊躇しているほどですので、一般の人はなおさらです。それでも、有権者は「憲法」、「原発」、「TPP」、「景気」などについてつぶやきましたが、分析結果をみる限りはその声は政治に届いていませんでした。
ちなみに、2012年韓国の大統領選挙では、ラインに相当する「カカオトーク」がシニア層に影響を与えたと話しましたが、各政党が選挙期間中にカカオトークを通じて送ったメッセージの回数は12回にすぎませんでした。選挙期間が23日ですので、1日1回にもなりません。しかし重要なのは発信回数ではなく、送られたメッセージを仲間の間で議論し、内容を添削し、解釈し、伝送しあう活動こそが影響をもたらしたのです。実際に、カカオトークを通じてシニア層の投票呼びかけが広がりました。投票呼びかけは主に若者に向けたものでしたが、カカオトークが登場したことで新しい動きが生まれたのです。
しかし、もともと投票率が高かったシニア層が投票呼びかけをしたのは、「政権が代わると税金が増える」「政権が代わると北朝鮮にもっと譲歩することになる」といった点をより広く伝えたいという動きからでした。若者の間でも「政権を変えて経済的格差をなくそう」とか「政権を変えて教育費を安くしよう」という内容で呼びかけがされました。
日本ではラストスパートに向けて投票呼びかけが増えましたが、何のために投票の呼びかけを行うのでしょうか。投票の呼びかけは選挙運動ではありませんので、誰でも可能です。韓国でも、作りこまれたポスターなどのツールを使った組織的な呼びかけもありましたが、個人が勝手に呼び掛けるのが大半でした。
本日アップ予定の最終回では、ラストスパートの選挙合戦と昨日の投票結果を踏まえたレポートをお届けします。