「アイデア」はコンテではない。
海外では、CDと打合せをするとき、どんなシートを見せるのだろうか?これは僕たちもここに来るまで興味のあることだった。CHIATではざっくり言うと、TVCMのクリエイティブを「アイデア」と「スクリプト」の2つのレイヤーで考えている。実際、打合せで1枚ずつの2枚組で提出する。「スクリプト」は具体的なCMコンテ。ただし、CHIATでは字コンテであり、絵コンテにするのはクライアントへのプレゼン段階になってから。では「アイデア」って何だろう?日本だとコンテの前には「企画の考え方」がある。
アイデア・シートに書かれているのは、考えたことを一言に集約するワードと2〜3行の説明文だ。一言の集約ワードは、あえて言うなら、日本で言う「企画タイトル」に近い。CHIATでは、コンテの手前にあり根本にある「アイデア」をとても重視する。その理由は「アイデア」がTVCMだけでなく、すべてのメディアに展開できる可能性のある「コア」だからだ。日本での打合せで、始めから具体的なコピー、グラフィック広告のアイデア、CMのコンテという、上がりに近い形の表現で打合せをすることが多いのとは異なる。またアイデア・シートは表現ができてから後で書く企画書とも違う。そもそも長いと読んでもらえない。1枚のアイデア・シートだけを見せたときに、着想・発想のポイントがクリアで面白いと感じさせること、そして、そこからビジュアルやストーリーを想像させるものになっていることが大事だ。逆に、理屈っぽかったり、長すぎたりするシートは、CDを退屈させ、がっかりさせて、打合せはそこで終わってしまうだろう。
日本の作品から思い出すと「hungry?」「宇宙人ジョーンズ」という企画タイトルが、集約したアイデア・ワードとしても素晴らしいものだと思う。アイデアもはっきりしているから、きっと2〜3行に凝縮した面白く期待感のある説明文も書けたはずだ。また、たとえばブレーンなどの広告の専門誌で、作品の紹介文を読んだだけで、その発想に「なるほど、やられた」と思う文章に出会うけれど、あれにも似ている。
アイデアを、コンテにする手前でいったんクリアにすることで、どこが新しいのか、どこが大切なのか、ブレずに表現を仕上げていくことができる。そしてよいアイデアは、シリーズ広告で長く展開して行くことができる。また、同じアイデアを世界各国でチューニングして展開することが可能だと思う。同じアイデアを、各国の文化や社会経済環境に合わせて、スクリプトを変えていくということだ。日本発でグローバル・アイデアをめざすなら、この「アイデア」というレイヤーを把握し使いこなせることが大事になって来るだろう。「アイデア」をしっかりクライアントと握っていれば、仕上げるプロセスで無用な迷走をさけることもできる。
僕たちは「アイデア」をまずしっかりと練った。それはこのブランドらしいアイデアだろうか? そしてコピーライター役の僕は企画タイトルと説明文を考えに考えた。CDがパッと見ただけで、ワクワクするだろうか? カンヌを受賞した作品たちのタイトルをもういちど見直したりした。そうやって1回目の打合せでは「アイデア」シートだけをまず提出して選んでもらい、2回目の打合せでそれらを「スクリプト」にして提出した。スクリプトはまさに英語力を要求されるし、映像が思い浮かぶように書かなければならない。そして映像のイメージを伝えるキービジュアルをつける。2人でCMの流れを考えたあと、僕は英語スクリプトと格闘し、ノゾミはビジュアルを気合いを入れてつくり、週末を2日ともつぶした。打合せの感触は悪くなかった。
ロスでは珍しい(みんなほとんどしない)徹夜をしまくりました。家の窓から。