スマホのサクサク視聴とニコニコ番組のまったり視聴
これまでの連載では、スマホ向けにいかにサクサクと見られるコンパクトなコンテンツを作るかという話でしたが、ニコニコ動画は逆に、まったりとみんなでおしゃべりしながら見ることが多く、この視聴モードに対応したコンテンツの企画依頼もまた増えています。
スマホでサクサクと見るのが、まるで仕事のように効率的なのに対し、ニコニコ動画のまったり視聴では、休日に居酒屋で友人と雑談しているような、くつろいだ雰囲気が求められます。
番組では、ユーザーのコメントを拾って対話できる方をキャスティングして、今回のホラー結婚式のような、共通の会話のネタを用意し、みんなでおしゃべりを楽しめるよう構成します。
ニコニコ番組を作るときにはテレビ番組を参考にしますが、同時に、どのようにテレビと差別化するかも考えます。ウェブメディアから見て、テレビ番組には次の4つの課題があるように見えます。これらの課題の克服を重視することで差別化できないかと思います。
(ウェブメディアから見た)テレビ番組の四つの課題
- テレビ番組制作のローコスト化には限界がある。
- ユーザーとの双方向性に限界がある。
- オンデマンド性が低く、シェアされるのに限界がある。
- 全体予算に占める制作費の比率が小さい。
まずテレビ番組制作のローコスト化ですが、最近のテレビ番組は生放送をあまり行わず、編集して作り込んでいます。これは、放送事故を防げるのと、コンテンツをぎゅっと濃縮することで視聴率を上げやすいためだと思いますが、編集している以上、制作コストを下げるのに限界があります。
一方、ニコニコ動画では生放送のライブ感が歓迎され、下手に編集された動画より見られる傾向があります。そして生で一発撮りだと非常にローコストで番組を作れます。
またテレビのデジタル放送のインタラクティブ機能では、リアルタイムでアンケートに参加してもらうことはできても、ニコニコの生放送のように、ユーザーがコメントを介して好きなタレントとしゃべることまでは当然できません。
そこでテレビ番組と差をつけるために、ニコニコ番組では、ユーザーとタレントが話す機会をできるだけ多くしています。出演者のキャスティングも、そのタレントがユーザーのコメントにどれほど対応できるか、いじれるか、という視点で行うことが多くなっています。
また、テレビ番組には当然URLがなく、ソーシャルメディアで番組を直接シェアすることはできません。一方でニコニコ番組はURLがあり、放送終了後もオンデマンドで見られるので、ソーシャルメディアでシェアされる施策を行い、視聴数をコツコツと上積みできます。
そしてテレビ番組の予算の内訳を見ると、電波料などもあり、制作費は予算全体の50%以下が多いようです。一方でニコニコ番組の配信費は微々たるもので、制作費以外にかかるコストが少なく、非常に安い価格でクライアントに番組を提供できます。
もちろん、テレビとはリーチが全然違うので、簡単な比較はできませんが、テレビ番組を一社提供するほど予算がないクライアントでも、ニコニコ動画では専用の番組を持つことができるという意味は大きいと思っています。
広告と一体化したニコニコ番組を作る
もし一社提供で専用番組を持てれば、これまでの連載でご紹介した、広告とコンテンツを一体化する方法を、ニコニコ番組でも同じように使えます。今回のホラー結婚式では、ドラマに登場する全身ラバースーツ男を、新郎として登場させています。これにより、結婚式の教養バラエティ番組であるのと同時に、ドラマの広告としても成立しています。
実はテレビも黎明期には、一社提供の番組が多かったため、参考になる事例が沢山あります。例えば昭和の名プロデューサー、小谷正一の著書『当たらん・当り・当る・当る・当れ・当れ』には、アニメ「ムーミン」を実現するまでの苦難が、克明に紹介されています。
アニメ「ムーミン」を一社提供したカルピスの思い
昭和44年に放送されたムーミンは、企画段階で、街中でキャラクターの絵を見せて反応を調査しました。女子高生や一部のOLからは「かわいい」「とぼけたところが好き」といった反応があったものの、番組のターゲットであった子供には全然ウケなかったそうです。中には「ムーミンはラーメンの一種か?」と尋ねた人もいたそうです。
さらにテレビ局では、ムーミンはほのぼのしすぎていてテレビ向きではなく、スベるだろうという意見が多数でした。当時流行っていたアニメは冒険物やアクション物など刺激的なもので、その中でムーミンは異色な存在でした。
不安に思ったテレビ局側は、ムーミンとは違う、もっと刺激の強い番組・B案を、スポンサーのカルピスに提案します。それを見たカルピスの方はこう答えます。
「このB案は当たるかもしれない。おそらく子供の人気は得るだろう。しかし社会的に考えた場合、モラルの面から言って、あるいは、このB案は情報公害を流すようなことになるかもしれない。多少ともそうした懸念のあるものにうちは手を出すことはできない」
このようにきっぱりと発言されたことから、テレビ局の担当者は、視聴率は気にしないでおこうと腹をくくり、ムーミンを作ったそうです。結果、予想外のヒットとなりましたが。
視聴率よりも、親たちが安心して子供に見せられる番組を提供したい、と願ったカルピスの姿勢からは、昔の話なのに、コンテンツと広告の未来を感じます。
現在のテレビ番組の多くは、複数のスポンサーによって提供され、番組は毎分の視聴率を上げるために最適化されています。そのような仕組みからは、もうムーミンのような番組は登場しにくいのではないでしょうか。
一方、一社提供でも作りやすいニコニコ番組では、その企業や商品のもつ世界観に合った、様々なコンテンツを作れる可能性があると思います。