「旗振り役」の存在が成否を分ける
第3部のパネルディスカッションでは、キヤノンマーケティングジャパンとハイアットリージェンシー東京の事例が紹介された。キヤノンマーケティングジャパンは、デジタル一眼レフカメラ用交換レンズ選びに役立つiPad向けカタログアプリ「EF LENS HANDBOOK」を今年2月にリリースした。シチュエーションや写真の作例によって好みに合ったレンズが選べるほか、焦点距離や被写界深度、絞りとシャッター速度の関係など、写り方やその効果が直感操作で体感できるのが特徴。紙のカタログのデジタル化にとどまらない各種機能を盛り込んだ。同社カメラマーケティング部の佐野昌宏氏は「交換レンズを買っていただくきっかけになっていると手応えを感じている。ヨーロッパやオーストラリアなど海外拠点からもこうしたアプリを活用したいとの声が挙がっている」と述べた。
東京・新宿のシティホテル「ハイアットリージェンシー東京」では、宿泊セールスや結婚式・披露宴セールス、フロントの接客業務でiPadを活用している。ブライダル部門では、披露宴会場の雰囲気を検討客に体感してもらうツールとして活用。「お見せすることでお客さまの気持ちも高まり、満足度向上にもつながっています」とブライダル課の野崎かおり氏は話す。フロントでは、予約客のチェックイン時に部屋のアップグレードを勧める際にも効果を発揮している。「接客の機会損失を防ぎ、成約率を高めることにつながり、増収効果が出ている」(野崎氏)という。
もっとも、企業のスマートデバイス導入は営業の仕組みや働き方そのものに変革を迫ることにもつながることから、現場への普及が進まないケースも見られるという。アマナの八島智史氏は、スマートデバイス導入が成功している企業の共通点について「この分野に最も詳しい人や部署を明確に位置付けていること」を掲げる。エヴァンジェリストとも言えるそうした存在が社内で旗振り役になっているという。
ビジュアルコミュニケーションの重要性増す
パネルディスカッションのモデレーターを務めたテクノロジーライターの大谷和利氏は、経営トップのコミットメントの重要性にも触れた。「スマートデバイスの波はこれから来るのではなく、すでに存在していると考えるべき。世界的にも優れた経営者はビジュアルコミュニケーションを重視しているように、こうした傾向を先取りしようというトップの意識が求められる」と指摘した。
書籍「ビジュアルシフト——電子カタログで加速するビジネス」は、本セミナーに登壇したソフトバンクモバイル・中山氏のインタビューやキヤノンマーケティングジャパン、ハイアットリージェンシー東京のケースも含め、導入に際しての考え方から電子カタログのつくり方、ツールのほか、利用場面ごとに活用事例を紹介している。