国内大手メディアが伝えなかったサウジの地下鉄建設のニュース

記者クラブによる独占的システムやスクープほしさの倫理観の欠如など、大手メディアがインターネット上で「マスゴミ」と批判されている一方で、独自の視点でニュースを伝える独立メディア系ウェブメディアが元気だ。

国内では、岩上安身氏のIWJ;Independent Web Journalや、渡辺正裕氏のMyNewsJapanが着実に視聴者数や購読者数を伸ばしている。また、海外では、フランス人ジャーナリストのティエリー・メイサン氏のヴォルテール・ネットなどがある。従来、こうした独立系ウェブ・ジャーナルは、情報のスクリーニングが不十分などと言われてきたが、最近はこうしたメディアにプロのジャーナリストが参画し、情報の質が担保されてきている。

そんなメディアのひとつとして、新たに注目したいのが、「開発メディアganas」だ。「途上国を知る。世界が広がる。」をキャッチフレーズに、「複眼の目」をモットーにした国際協力・途上国をテーマとするウェブメディアで、途上国在住、または現地での経験をもつジャーナリストや研究者からのプロボノで成り立っている。

今回は、ganasから、日本のメディアではほとんど報じられていないサウジアラビアのニュースを紹介する。

サウジ・リヤドに地下鉄建設、2019年に完工、投資額は2000億円以上

サウジアラビア政府が、地下鉄を首都リヤドに建設する。
米公共ラジオ局(NPR)などが7月31日に報じたもので、2014年に着工し、19年に完工する予定。リヤドの人口は570万人だが、地下鉄の利用者は、当初は1日100万人以上、10年後には同360万人を見込む。

建設主体は、4つの合併企業で構成するコンソーシアムだ。中核となるのは、フランスの大手建設会社バンシ(Vinci)、カナダの重工業会社ボンバルディア(Bombardier)、スペインの建設会社フォメント・デ・コンストルクシオネス・イ・コントラタス(FCC)、オーストリアの建設会社ストラバック(Strabag)の4社。

このほか、地元資本の8社と、英国、米国、イタリア、韓国、ドイツ、オランダ、ベルギー、スイス、トルコ、インドなどの21社が協力する。

地下鉄の総工費は22億ドル(約2164億円)。NPRによると、この金額は、公共交通機関に対する投資としては世界で最も巨額だという。

「地下鉄は、リヤドに住む人たちの生活の質を高める」とプロジェクトの統括者イブラヒム・アル・スルタン氏は強調する。その言葉通り、このプロジェクトには、交通の便が単純に良くなること以外に“隠れた3つのメリット”がある。

それは、第一に自立的な生活をサウジアラビアの女性にもたらすこと、第二に低所得者層の生活を改善できること、第三に石油収入を今後も確保することだ。

「自由な移動手段」をサウジ女性にもたらすか

自由な移動が制限されるサウジアラビア女性にとって、地下鉄は、自立した生活を実現できる救世主になるかもしれない。

リヤドの女子大生アラ・ハッサンさんは「私は必ず、地下鉄を使う。車を運転できない女性にとって、地下鉄の利用は1つの解決策(自由に移動できる手段)になるから」と大きな期待を寄せる。

サウジアラビアの主要な移動手段は車だ。ところが女性は車の運転を禁止されている。移動する場合は、運転手を雇うか、タクシーを利用するか、男性の家族に連れて行ってもらわなければならない。

実は、サウジアラビアには女性の運転を禁じる法律はなく、宗教団体が「事実上の禁止」に追い込んだといわれる。しかしこの“慣習”によって女性は自由に仕事に行けないのが現状だ。これは、働く女性が増えるサウジアラビアでは大きな足かせとなっている。

難しいのは、地下鉄を敷設しただけで、問題が解決するわけではないこと。サウジアラビアでは、生活のあらゆる場面で男性と女性は別々に扱われるが、これは言い換えれば、女性は、車内で、家族以外の異性と接触できないことを意味する。

こうした事情に配慮してこのプロジェクトでは、女性客のために、女性とその家族が乗る特別車両「ファミリークラス」を導入する。ファミリークラスは、インドのニューデリーやエジプトのカイロ、中国の上海、東京でいう「女性専用車」に似ている。

>>次ページ 地下鉄で低所得者層にもメリット

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