通学代5万円の大学生も、節約に期待
低所得者層にとって地下鉄は大きな節約手段にもなる。
アラ・ハッサンさんは「私は毎月2000サウジアラビア・リヤル(約5万3000円)を払い、マイクロバスに乗って大学に通っている。大学の近くに住むクラスメートも、1カ月に800~1000サウジアラビア・リヤル(2万1000~2万6000円)の交通費がかかっている。地下鉄ならもっと安くなるはず」と運賃の低さに期待する。
サウジアラビア政府も「低所得者層の生活を改善したい」との方針を掲げる。一方で、2010年から続くアラブの春以来、中東諸国で起こったデモなどの反政府運動をかわすための方法にすぎないのでは、と指摘する専門家もいる。
また、サウジアラビア政府が地下鉄建設を決めた背景には、経済的な事情もある。モーダルシフトを進め、省エネを図りたい意向だ。
リヤドの現在の人口は570万人だが、2030年には840万人に達する見通し。このままでいけば、車のガソリン消費量は急増していく。政府にとってはガソリン消費量を減らしたいという狙いがある。
サウジアラビアでは目下、石油の採掘コストが増大している。多くの油田では、これまで以上に深く掘る必要があるためだ。石油の輸出量が将来減っていく可能性もあるなか、外貨収入の9割を石油に依存する同国の経済に大打撃を与えかねないとの懸念は小さくない。
地下鉄建設にはさらにもう1つ理由がある。石油価格の近年の上昇で、サウジアラビアには巨額の利益が入ってきたが、効果的な使い道がないのが現状。海外に投資したところで、低金利と世界不況で利益はほとんど見込めない。ならばこの資金で国内のインフラを整備したほうが得策との考えも政府にはあるようだ。サウジアラビア政府は実際、リヤドだけでなく、ジェッダやメッカにも地下鉄を建設する計画を立てている。
(開発メディアganas=有松沙綾香)
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