データドリブンは生き残りの要件、アナログな感性は勝ち抜く要件

前回は僕が考える「編集」の定義についての話でした。「雑誌は主観に基づくパッケージングが大事で、ウェブは網羅性とパーソナライズが大事なのでは!?」という僕の主観的な意見を述べさせていただいたのですが、4回目の今回はその続きです。

雑誌もウェブサービスも「コンテンツを継続的に供給し続ける」という大きな共通点を持っているという前提に立った上で、では雑誌とウェブサービスの違いとは何か。さらに、雑誌のオンライン化で登場しつつあるそのハイブリッド版(?)、雑誌をウェブサービスの形で提供する際に大事にすべきポイントについて書いていきます。

雑誌はバラの花?

何よりも大きな違いは、ウェブと違い雑誌は読者の目に触れたものが完成形。一度世に出たら、修正や改善はできないということです。

たとえば、雑誌の表紙を例に挙げます。基本的に雑誌の表紙で実際に使用するモデルカットは、あらかじめ複数撮っておいた写真の中から選びます。その中に、モデルが右手を挙げたバージョンと下げたバージョンがあったとしましょう。編集長が、うーんと腕を組みながら悩み、「今回はこれでいこう!」とどちらかのバージョンを選ぶ…。この作業が毎月繰り返されるわけです。

一方、これをウェブでやる場合、発売日は右手を挙げたバージョンと下がったバージョンの2パターンを試し、2日目からは1日目の売上がよかった方に統一することが物理的に可能になります。連載の1回目「ウェブにおいてプロモーションは花火、サービスは盆栽」の内容に似ている部分がありますが、この積み重ねができることがウェブの強みであり面白さです。プロモーションが打ち上げられてはすぐに消えてしまう花火、ウェブが盆栽だとしたら、ファッション雑誌はプロモーションよりは長く世に残るものの、バラの切り花、といったところでしょうか。

アナログとデータドリブンの線引き

ウェブサービスを運営して感じたのは、この右手を挙げる、下げるというポイントが実は100箇所、1000箇所と存在するということです。繰り返しになりますが、1つのテストでは1%しか差がでなくても、積み重ねると大きな差になる。1.01の100乗で2.7倍、365乗は約38倍という話です。それを、スピード感を持ってデータドリブンで最適解を選び続けるプロセスがウェブの強みです。

ただ、これをやりすぎと何が起こるか。そう、シンプルに面白くなくなるのです。表紙のモデルに何を着せるか、というところまでこの方法で選ぶ方がいいのか、といえば僕は全くそうは思いません。このジャケットとこのスカートの組み合わせと、このコートとこのパンツの組み合わせ、どっちのほうが売れるか、この部分はユーザーに問うことではなく、編集者の主観が必要とされるところ。そこはどんな雑誌を作りたいのかを編集者が悩み考え、その世界を表現してくれるスタイリストとともにこれだ!というコーディネートを作り、それに読者が満足しはじめて心が動かされるのです。

これはあくまで一例で、状況によってもちろん変わってきますが、結局のところ雑誌にとってはここが命、編集者をやっていれば比較的自然に理解できる部分ですが、ウェブだと軽視されている側面もやはりあります。とはいえ、ウェブサービスにおいても、結局のところ、ここが差のでてくる部分になってくるのです。どこまでをアナログにやるのか線を引き、その線より向こう側は徹底的にデータドリブンで走る。(特にウェブの世界では)後者はできて当たり前で、これができてはじめてステージに立てる。そして立ってからの違いが前者に現れるのです。

アナログにやる部分はヴィジョンであったり、サービスの根本と大きく関わってきますが、この主観と客観のバランスをどうとっていくか、境界線をどくに引くか、このポートフォリオを考えることがファウンダーの大事な仕事であり、編集者の経験もある僕にとってはウェブでサービスをやる一番の楽しみになっています。

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山本 憲資(Sumally Founder & CEO)
山本 憲資(Sumally Founder & CEO)

Sumally Founder & CEO

一橋大学卒業後、電通、コンデナスト・ジャパン「GQ JAPAN」の編集者を経て、2011年9月「Sumally」をローンチ。http://sumally.com

山本 憲資(Sumally Founder & CEO)

Sumally Founder & CEO

一橋大学卒業後、電通、コンデナスト・ジャパン「GQ JAPAN」の編集者を経て、2011年9月「Sumally」をローンチ。http://sumally.com

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