危機管理対応への評価
花王という会社はリスク管理ができない会社ではない。にも関わらず、このような事態に追い込まれた状況は、カネボウ化粧品買収後の組織構築の失敗にある。老舗ブランドを買収するということが、即、名門企業に配慮し、自主性を与えることにつながるとは言い切れない。
不測の事態が発生すれば、事実関係の調査や原因の究明、その後の親会社の危機管理広報、ましてや被害者が出ている状況では、被害を最小限に止めるための施策や再発防止への急ピッチな取り組みが不可欠となる。リスク管理態勢を一元化し、子会社との情報を共有できる仕組みが重要となるが、今回の問題の原因とも言える正確な情報が出て来ない事態には困惑するばかりだ。
個別リスク情報を吸い上げる体制については、お客様からのクレームが商品ごとに整理され、クレームの内容の度合いによって取締役会等への定時報告、さらに緊急クレームや重大な被害状況に応じて担当役員へのホットラインの設置などが予め整備されていなければならない。今回の問題の対処プロセスを考慮した場合、人的被害につながる化粧品を扱う会社としては、リスク管理態勢の運用面やハザード・コントロールに問題があったと言わざるをえないだろう。
また、今回のカネボウ化粧品の発表にもあるが、「現場担当者が化粧品との関連性を疑わず病気と判断」したとされている。これだけの被害状況に対して、現場だけの判断で終始してしまうことにも問題がある。製品リスクに対しては、その現場判断に対して適切であったかどうかの内部監査が定期的に行われるべきであり、そうしたしくみを持たないことも内部統制上の欠陥につながるものと推察する。
ちなみに、今回の回収では中国の製品について対象となっていない。理由として原因となった「ロドデノール」が中国販売のための認可申請中となっていたため、販売された製品にはこの原因成分が一切含まれていなかったことによる。
中国では「色白は百難隠す!」とされ、2012年、女性の間で美白が大ブレークした背景がある。外出時には入念な日焼け対策をしたり、海水浴では顔に覆面レスラーなみにマスクをかぶるなど、中国人の美白への関心は尋常ではない。
今回、もしカネボウ化粧品の該当製品(ロドデノールを含む製品)が中国でも販売されていたとすれば、花王はその対応(単に治療費や後遺症だけにとどまらず、再市場開拓までの工程)に10年近くかける必要があったかもしれない。それだけ今回の問題は奥が深く、事後処理も慎重でなければならない。
中国における美白化粧品全体の売上に対して花王の売上シェアはいまだ少ない。今回の問題を教訓として大きく売上を伸ばすことができるかどうかは、カネボウブランドを本格的に花王が飲み込み、どう変えて行くかにかかっている。また、美白マーケットは、中国市場にとどまらず、アフリカやインド市場にも期待が広がる。花王の世界戦略の中で、今回の問題の学習効果が厳しく検証されるのは、それほど遠いことではないだろう。