※『宣伝会議』にて、宣伝会議主催のクリエイティブ・ライティング講座と連動して連載中の「いま企業に求められるクリエイティブ・ライティング」より抜粋。本記事は2013年9月号に掲載されたものです。
八代目儀兵衛の事例
京都に代々続く老舗米屋、八代目儀兵衛。既存の米屋ビジネスの枠組みを超え、お米のギフト商品のインターネット販売や、京都・祇園における飲食事業「京の米料亭 八代目儀兵衛」の運営、炊飯に最適な土鍋釜の開発、食育活動、農業プロジェクトなど、“お米のトータルプロデュース”をコンセプトに多岐にわたる事業を展開する。
ギフト商品に同梱する「お米の炊き方」。写真もテキストも濵口さんが担当した。「お米を手で握って離す」――研ぎ方ひとつに至るまで、正しい方法を、誤解を生まずに伝える表現を考え抜いた。「湯気がはっきり写りこむようなストロボの炊き方など、写真撮影においては、前職の広告制作会社で培ったスキルが活きました」(濵口さん)。
2011年にオープンした、東京事務所。顧客が
直接商品を見て、触れて、選ぶためのサロン
としての機能を果たす。
東京事務所がオープンしたのは2011年。「ネットだけで商品を決めるのは不安」などの声に応えて設置したもので、顧客が直接商品を見て、触れて、選ぶためのサロンとしての機能を果たしている。このサロンでの接客のほか、カタログ・ECサイト向け写真の撮影サポートやコピー・商品説明文の作成、ギフトに同梱するリーフレットの制作、法人向け提案の際のプレゼンテーションなど、多岐にわたる業務を担うのが、マネージャーの濵口敬子さんだ。「店頭、紙媒体、WEB媒体とさまざまなシーンで言葉に関わるなかで、その使い方の難しさを日々実感しています。特にWEBは、『お客さまの目の前にない商品の特徴を伝え、購入意思決定までリードしていく』『言葉だけを見て、食べてみたいと思ってもらう』という点で、言葉の担う役割が非常に大きいと感じます。お米は、実際に食べてみると味や食感がそれぞれ全く異なるのですが、それをいざ言葉で表現するとなると難しい。『もちもち』『つやつや』『ふっくら』などと表現が画一的になりがちなのが悩みどころです。誰もが、おおよその味や食感を知っているお米を、言葉の力でいかに差別化するか。商品ごとに異なるお米の味・食感の魅力をいかに伝えるか。試行錯誤の連続です」(濵口さん)。
価値を言葉で正しく伝える
同社がこうした新規ビジネスの展開に着手したのは2006年のこと。背景には、お米を取り巻く環境の変化があった。地球温暖化などの影響で気象や自然環境が変わりつつあることに加え、日本人の米離れが進み、家庭での米の消費量は減少の一途を辿る。「お米を“贈る”“もらう”という体験をきっかけに、お米に興味関心を持ってもらいたい。お米のギフト販売は、その思いからスタートしました」。結婚式の引出物や出産の内祝い、お中元、快気祝い、香典返しなど…。ECサイトには、人生のさまざまなシーンを想定し、それぞれのターゲットのインサイトを意識したコピーや説明文を、商品写真とともに掲載している。
ECサイトでは、出産や結婚、快気祝いといった人生のさまざまなシチュエーションに合わせて商品を紹介している。「主語を変えても成立するような無難な言葉ではなく、そのシーンにしかはまらないような言葉を考えます。特にWEBは更新頻度が高いため、そうした言葉をスピーディーに考える必要があります」(濵口さん)。
また、“ブレンド米”の価値向上にも取り組んでいきたい考えだ。「産地・銘柄がおいしさの基準とされることが多いなか、当社では味・香り・つやなどの条件を満たすお米を全国から取り寄せ、吟味・精米・ブレンドして商品化しています。ブレンド米というとマイナスイメージを持たれがちですが、ブレンドすることで1年を通しておいしいお米を提供することは、米屋の使命でもあります。消費者にブレンド米の良さを知ってもらえれば、米屋もそういう商売ができるようになる。当社の取り組みやその背景にある思い、商品の価値を言葉で正しく伝えることで、お客さまに選び取っていただきたいと考えています」。
最近では著名人の利用も多く、女性誌やブログなどで話題になることも増えた。ギフト商品のひとつ「十二単満開」は、2007年にフォーマルギフトフェアで大賞を受賞、また2013年には楽天の「内祝い」ジャンルで上半期ランキング1位を獲得するなど、外部からの評価も着実に高めている。
ギフトに同梱される、商品のセット内容を説明するリーフレット。お米のおいしさの記憶に加え、八代目儀兵衛という名前や世界観を記憶に残すために一役買う。また、あわせて同梱するレシピのリーフレットでは、料理用語を知らない人もいることを意識し、たとえば「短冊切り」ではなく、「●センチ角に切る」といった平易な表現を心掛ける。
八代目儀兵衛 マネージャー 濱口敬子氏
講座受講後は、自分が書いた文章に疑問を持ったり、“ツッコミ”を入れたりすることが増えたと濵口さん。「『“日本一”って本当?』『“こだわり”って何と比べて?』『“最高”って何が?』――たった一言でも、深く掘り下げて、熟考するようになりましたね。WEBの商品説明文は、お客さまがギフトを贈る相手のことを考えながら読むもの。お客さまの大切な時間をいただいているという意識を持って、誠実に向き合う言葉を選び取りたいという気持ちも強くなりました」と話す。
10月には、東京・銀座へ体験型アンテナショップの出店を控えている。プレスリリースや店舗の公式サイトで、いかに八代目儀兵衛の思いや世界観を伝えるか。そのためにも、ますます言葉に磨きをかけたいと話した。
「宣伝会議」創刊60周年記念事業の一環として開講。コピーライティングのノウハウを基に、日常のビジネスで「人を動かす言葉の使い方」を学ぶ。
※「クリエイティブ・ライティング」は宣伝会議の登録商標です