社会のためになる消費(5)自然と人をつなぐ新しい消費のあり方

社会のためになる消費(1)(2)(3)(4)に引き続き、『環境会議』2013秋号「社会のためになる消費」特集の一部をご紹介します。

取材協力
林 民子 ダブルツリー 代表取締役、NPO法人ソーシャルコンシェルジュ代表理事
四井 真治 パーマカルチャーデザイナー、土壌管理コンサルタント

「つながり」と「全体性」を取り戻す体験

都会の暮らしのなかでは、排泄物と農業と食の結び付きを実感する機会はほとんどないが、かつて江戸や京都などの大都市では、都市住民の排泄物は周辺の農家に売られる大事な資源だった。また、ほんの数十年前まで農家が排泄物を堆肥として利用することは当たり前だった。いまでも四井邸で実践されているのを見ると、微生物が働きやすいように管理することで衛生上の問題もなく、うまく活用できることがわかる。

八ヶ岳プロジェクトでは、このように「概念だけではわかりにくいパーマカルチャーを、体感して理解してもらい、生産者と消費者相互がより理解し合い、持続可能な食と農を考えるきっかけにしていくことが狙い」と林さんは言う。

自然のシステムを読みとり人間の生活をそれに組み入れることにより、自然の豊かさ(生産力、多様性)と人間の生活の質(精神的豊かさのある生活)を共に向上させる。そのようなシステムを構築するために、昔からの農業のやり方の中に含まれている智恵と現代の科学的・技術的知識を融合して、植物や動物の固有の資質とその場所や建造物の自然的特徴を活かし、最小限の土地を活用して都市部にも田舎にも、生命を支えていけるシステムをつくり出していく。それによって、搾取したり汚染したりすることのない仕組みであり、長期にわたって持続しうるシステム、それがパーマカルチャーだ。

19~20世紀に進んだ農業の大規模化は、大量の化石燃料と化学肥料を投入しながら地球の生態系システムを破壊してきた。大規模プランテーションによるモノカルチャーは、土着の人々の暮らしの基盤を奪い、今日の途上国の貧困問題の原因となっている。このようなやり方の先には破たんが見えている。

誤った方向に進んできてしまった仕組みを持続可能な方向に修正していくためには、生産者だけでなく、消費者からもより積極的に市場に働きかける必要がある。ソーシャルコンシェルジュの八ヶ岳プロジェクトは、世界中で始まっているそうした活動の一つであり、近代化や工業化によって失われた「つながり」と「全体性」を取り戻すことで、現代社会が直面する複合的な問題の解決につながるグッドアクションを、人々の心の内側から誘発していこうとしている。

新しい価値を生み出し よいおカネの循環をつくる

学校や企業など、様々なところで、環境教育が行われるようになり、こうした問題に対する人々の理解も進んできている。しかし、学んだことを活かし、社会を変えていくにはどうしたらいいかという段階になると、大人も子どもも多くの人が壁にぶち当たる。実際にできることが限られているからだ。これは、環境問題だけでなく、途上国の貧困問題や障害者の差別など、様々な問題に共通している。学んで問題を認識しても、行動を起こす場面も機会もなければ、他人事で終わってしまう。

では、どこに行動のチャンスはあるか。ソーシャルコンシェルジュも提案しているように、実は一番簡単なアクションは消費であり、選択である。何を選び、どこにお金を使うかは選挙で投票するのと同じくらい重みのあることだ。消費者庁や文部科学省でも食の安全や環境問題、悪徳商法に関する消費者教育の取組みが始まっているが、これからは、よりポジティブな消費者教育として、エシカル消費の教育やアクションも進んでいくことが期待される。なかでも、持続可能な食と農の仕組みへの消費者参加型教育は、農業を支えていくための、重要なテーマとなりそうだ。

『環境会議2013年秋号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。(発売日:9月5日)
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