前回のレポートでは、クリエイティブキャンペーンに浸透する「PR的なエッセンス」について、「ファクト」と「パーパス」という2つのキーワードから考察してみた。第2回では、視点を逆に置いて「PRのクリエイティブな進化」というテーマで考えてみたい。
PR審査委員長 Lynne Anne Davis
最終日のスパイクスは、錚々たる各審査部門のPresident of Jury(審査委員長)たちの講演で幕を開けた。今回PR部門の委員長を務めたのが、僕たちフライシュマンヒラード・グループのアジア太平洋地域統括プレジデントのLynn Anne Davis。彼女は大学でジャーナリズムを専攻しフライシュマンに入社。30代で香港オフィスの代表を努め、その実績を買われ今の立場まで上りつめたスーパーウーマン。(どちらかというと)カタめな人が多い世界的な大手PR会社幹部ではめずらしく、クリエイティブで柔軟な発想の持ち主だ(その証拠に今回はいつものカンファレンスより興奮して楽しそうに見えた)。PR界を代表して登壇した彼女の題目は「We Have the Power to Change the World(私たちは世界を変えるパワーを持っている)」だ。その中のキーポイントを紹介しよう。
PR(Public Relations)という領域は、そもそも「Business Objectives + Social Benefits」つまり「事業目的」と「社会利益(公益)」の両立が“デフォルト”だ。戦略PRで提唱した「(おおやけな)空気をつくって売りにつなげる」という発想もここに根ざしている。ここに「パーパス」が大事だという理由がある。さらに、PRプログラムは限りなく事実情報をもとに立案される。フィクションではなく、事実を増幅させるのがPRの腕の見せどころ。「ファクト」が不可欠なのだ。これらを彼女は「PR Thinking(PR的発想)」でひとつの“マインドセット”であると強調した。広告会社だろうがデジタルエージェンシーだろうが、このマインドを持つことがこれから重要になるというわけだ。
いっぽうで、従来のPR領域やPR会社に欠けていること――それが皮肉にも「クリエイティビティ」でもある。