それでも対応しなければ危機は止められない
では、どうしたらいいのだろう。危機が訪れないことを祈るしかないのだろうか? 多くの企業では自らのリスクを抽出し、2年~5年の周期でそれを見直す方法をとりながら、特に重大なリスクについては会社法などの法令に則って管理方法を定め、運用面での柔軟性を重視して対応している。
しかし、昨今の状況では、リスク自体の変化が著しく、長期的な周期での見直しでは十分な対応が非常に難しくなっていることも事実だ。一方で、コストや手間を考慮すると、毎年あるいは相応の頻度で会社全体のリスクを抽出し直すということも現実的ではない。
そこで危機回避のひとつの可能性を模索すると、シミュレーションによる思考訓練を行うことである。過去の事例や今まさに業界他社で起きた事例=ケーススタディをとりあげて、その事例が辿った経過をおさらいし、もし自身の会社、部署で起きたことであればどうすべきであったかを考えてみる。いわば防災訓練のようなものだ。防災訓練というと大規模地震や不祥事における模擬記者会見を思い浮かべる経営陣を多いと思われるが、危機管理のための個別行動そのものを想定する訓練を含めることで意味は違ってくる。東日本大震災でも津波に対する訓練が行き届いていた地域の被害は小さかったと報告されているように、追体験であっても起こりうる個別事態を知っているか否かによって、いざという時の行動には大きな違いが出る。
不祥事の認知時には既に風評の炎上という事態も
最近では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が世界中で台頭しているように、情報の流れが従来とは一変してしまった。危機管理において情報の収集、取捨選択、発信といった情報の扱い方が決定的な意味を持つことは言を待たないが、今やSNSによって独裁政権が倒され、上場企業の株価が20%以上も下落するような時代だ。一般消費者や従業員・アルバイトなどがスマートフォンなどのITツールを使いこなし、社内外からの告発を容易にしている。
情報の氾濫により、何が事実で何が噂や伝聞情報なのかさえ区別がつかないような状況の中、現実の危機管理は、冷静・冷徹に事実確認の検証からスタートし、原因究明、事態の評価・是正、責任の表明、再発防止策までを着実に行わなければならない。より精密でより素早い対応が求められる中で、実践的なシミュレーション・トレーニングを積んでいなければ、あっという間に“レームダック(死に体)”という底なし沼に足元をすべらす時代に突入している。
マニュアルに固執し、その制約に縛られることで対応が遅れ、人身被害などが進んでしまえば、会社の対応自身にも問題が指摘され、風評化は免れない。その意味で、シミュレーション・トレーニングを重ねることで経験値を高め、変化するリスクに対して柔軟な裁量判断を行うことでリスク回避の能力を醸成することが重要となる。