橋本 卓郎(電通 コピーライター/CMプランナー)
半沢直樹で何か書けないかと考えたのですが、力量が足りませんでした…。
電通の橋本卓郎です。なんでもない僕の仕事の話ですいません。
ある日の打ち上げの席で、アートディレクターの先輩からちょっとショックな話がありました。「新しい仕事のアサインがあってさあ、コピーは橋本くんどうかなって思ったんだけど」「はい!(ドキドキ)」「やっぱやめたんだよね」「ええっ!な、なんでですか…」「だって一緒につくってくときに、ダメとかイヤとかキライとか、そういうの言ってくれなそうだったから」
先輩が怖くて意見が言えないとか、そういうことでは全くありません。僕は、その先輩がつくっていくものを、いつもいいなあと思っていました。だから否定することなんてほとんどなかったんです。さてどうしたもんかな…となにか根深いものを感じながら悶々としていたある日、ふとテレビから、耳に飛び込んできた言葉がありました。
「内向きは、無知につながっている」
画面には映っていたのは、緒方貞子さん。そしてこの言葉に頭をがつんと殴られたような気分になりました。
僕はコピーライターです。だから言葉に責任があるし、そこに持てる力を尽くしている。でも、その「自分はコピー」という姿勢の裏側で、どこかで実は、「コピー以外は考えません」と内を向いていた、と感じたんです。
ビジュアルやレイアウトを「誰か」が考えることだと思っている限り、意見できることって、きっとたかがしれている。「自分」の考えることだと腹を据えて向き合えるかどうか。それでかなり違うぞ、と思って、妙にスッキリしたのでした。
日本と世界、という文脈で語られていた「内向きは、無知につながっている」という言葉は、コピーとアートのこととはスケールも意味合いも違うと思います。ですが、その言葉自体が発しているものは、業界とか、メディアとか、世代とか、地域とか人種とか、世の中のいろんな「内」と「外」に当てはまると思います。
自分の道を追求していくのはいい。だけれど、内を向きつづけて閉じた自信をつけてはいけない。それを緒方さんは、無知につながっている、と表現しました。国連で過酷な難民問題に向き合い、トップとして決断を下してきた彼女だからこその、とても迫力のある、ずしりと重い言葉だと思います。
自分が何を考えるかは、いつだって自由です。だから、ふだんからどんどん、外へ外へ、考える人になろうと思ったのでした。
それにしても、半沢直樹の大和田常務の土下座、ものすごかったですね…。
橋本 卓郎(はしもと・たくろう)
電通 第2CRプランニング局 コピーライター/CMプランナー。
2006年宣伝会議コピーライター養成講座基礎コース修了。
四谷学院「四谷のこだわり」シリーズ広告、明治オリンピック協賛CM「レスリング男の子」「バレーボール女の子」、旭化成「サランラップ」「Ziploc」「クックパー」、本田技研工業「FIT SHUTTLE」、大成建設、出光興産、大塚製薬「UL・OS」などを担当。
TCC新人賞、Adfest、OneShow、読売広告賞、日経広告賞、消費者のためになった広告コンクールなど
【バックナンバー】
第1回 最強の言葉、それは。
【「コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常」バックナンバー】
- 異業種からコピーライターに転職した話【新人篇】(7/1)
- 異業種からコピーライターに転職した話【フリーター篇】(6/24)
- 異業種からコピーライターに転職した話【会社員篇】(6/17)
- 異業種からコピーライターに転職した話【学生篇】(6/10)
- 2013年5月 古屋彰一「地方での広告づくり」
- 2013年4月 日野原良行「打席はそこらじゅうにある」
- 2013年3月 竹田芳幸「ありがとう。大石さんと石田さん(コピーライターになる編)」
- 2013年1月 平野慎也「25歳、新人コピーライターのリアル。」
- 2012年12月 室山加奈子「Webディレクター、コピーを学ぶ」
- 2012年11月 小野勇樹「いちデザイナーが感じる、言葉の大切さ。」
- 2012年10月 貝洲岳洋「(極私的)広告セレンディピティ(1)」
- 2012年9月 林潤一郎「よく考えない。」
- 2012年8月 小林麻衣子「女子力」より「おっさん力」
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