ここでは、『販促会議』2013年10月号に掲載された連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。
(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)
自然食品を中心に扱うアメリカのスーパー「ホールフーズマーケット」では、PBの子ども用サプリメントを販売している。パッケージラベルのイラストはカラフルで元気よく、いかにも“子ども向けのお菓子”という雰囲気だ。透明なボトルの中に見える粒もカラフルなうずまき模様のグミ状で、何ともおいしそうだが、商品にはカルシウムとビタミンDが配合されている。この商品は菓子売り場ではなく、サプリメント売り場で売られていた。
さて、日本で同じように、子ども向けサプリメントを菓子のようなパッケージで販売したら売れるだろうか。この商品は、新市場をつくるときのパッケージデザインの在り方を考えさせてくれる。
今までにない市場をつくるとき、パッケージデザインがとるべき方向は二つだ。既存市場のどこかのパッケージに似せるか、全く新しいパッケージデザインにするか。今回の商品を例にとると、「(1)サプリメントのパッケージ」「(2)菓子のパッケージ」「(3)サプリメントでも菓子でもない、全く新しいパッケージ」という三つの選択肢が存在する。
(1)、(2)を検討するには、販売される棚(=カテゴリー)を考えてみるとよい。サプリメントの棚と菓子の棚、どちらが自社にとって戦いやすいだろうか。自社のブランド力や技術力、営業力が通じるのはどちらか。資本力や商品力の強い競合は存在するか。こういった観点から、どちらの棚で売られる方が有利であるかを考え、勝てる見込みの高いカテゴリーのパッケージデザインを選ぶべきだろう。
では、(3)の選択肢はどうか。例えば、大塚製薬「カロリーメイト」のパッケージは、栄養補助食品を代表する素晴らしいデザインだが、発売当初は栄養補助食品という棚が存在しなかったため、斬新で全く新しいパッケージデザインだった。要はここを目指すかどうかだ。
ここを目指す場合の条件は、市場をつくるための長期的な投資を計画していることである。パッケージデザインが斬新でも、長期的な商品育成の計画がなければ、単に“変わった商品”と捉えられ、消費者に手に取られることなく終わってしまう。新市場を創出するための長期的なマーケティング投資をするつもりがないのであれば、全く新しいパッケージデザインは避けるべきだろう。
“サプリメントのパッケージデザイン”としての勝ち方があり、“菓子のパッケージデザイン”としての勝ち方がある。今までにない市場をつくるなら、今までにない新しいパッケージデザインと、計画的な市場投資が必要になる。
デザイナーの立場から言えば、前述の(1)~(3)のデザインは全く異なる。私の経験では、パッケージデザインの制作時点で「どの棚で戦うか」「市場投資の長期的な計画があるか」という2点が整理されていない場合、ヒット商品を生み出すことは難しい。なぜなら、それはマーケティング戦略が見えていないのと同じことだからだ。大切なのはこの2点を、デザイン制作前に決めていることである。
小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。
【バックナンバー】
- 医薬品“らしくない”パッケージへの挑戦
- 産業財にパッケージデザインは不要か?
- 耐久消費財をパッケージデザインで売る——「販促会議7月号」より
- アジアのデザイン力——「販促会議6月号」より
- “美しい”パッケージデザインとは——「販促会議5月号」より
- 無印良品のデザインはなぜ“良い”のか?——「販促会議4月号」より
- パッケージデザイン賞の価値「ペントアワード2012」——「販促会議3月号」より
- パッケージを、ショッパーインサイトから考える——「販促会議2月号」より