橋本 卓郎(電通 コピーライター/CMプランナー)
黒板に向かう先生の授業は、いつもと変わらない調子ですすむ。パジャマ姿で、しかも、小脇にテディベアを抱えていること以外は…!授業を受ける生徒もみんなパジャマ姿!もちろん僕も!これ、ほんとうにあった中1の時の話です。
アメリカのデラウエア州という片田舎のその学校には、「パジャマ・デー」という日がありました。文字通り、先生も生徒も、学校で一日中、パジャマを着て過ごす日。パジャマ姿の生徒で埋まった朝のスクールバスは、なにかの物語のはじまりみたい。学校に到着すると、出迎えてくれる先生たちも、もちろんパジャマです。
当時、なんでそんなことをしていたのか、よくわからないままでした。というより理由なんて考えもしませんでした。ただ、学校がいつもと違って面白くて、白人も黒人もユダヤ系もアジア系もみんな同じ格好で、心地よかったのを覚えています。ふだん勇ましい女性の体育の先生が、急に色っぽくなって、男子みんながざわざわしたのもいい思い出です。そして何より、英語が下手でなかなか友達がつくれない僕にとって、いつも話さないクラスメイトとも話ができて、うれしかったんです。
想像することしかできないのですが、たぶん「学校に一体感がない」とか「先生と生徒の間に距離がある」とか「クラスで人種差別がある」というような問題が、あったのだと思います。そのことについて、きっと先生たちは議論をしました。そして誰かが、言ったんです。「ねえ、みんなでパジャマ着てくるってのはどう?」
もしもその時、自分が先生だったら。たぶん、「ホームルームで話し合おう」とか「全校集会で校長先生に話をしてもらおう」なんてことを考えそうだなと思います。それに比べて、「パジャマ・デー」という解決法。最高だと思います。なんでパジャマかなんて、たぶんリクツはありません。でも確かに、効果はあったのです。
どんな問題も、解決方法はひとつじゃない。だったら、たのしいほうがいい!と思います。いま世の中にある問題は、そう簡単にはいかないことばかりかもしれません。でも、たのしい解決を見つける力こそが、アイデア力。そして、その能力を日々みがいて、得意にしている人が、広告を仕事にしている人だと僕は思います。
これで全3回のコラムは終わりです。
お付き合いいただき、ありがとうございました!
橋本 卓郎(はしもと・たくろう)
電通 第2CRプランニング局 コピーライター/CMプランナー。
2006年宣伝会議コピーライター養成講座基礎コース修了。
四谷学院「四谷のこだわり」シリーズ広告、明治オリンピック協賛CM「レスリング男の子」「バレーボール女の子」、旭化成「サランラップ」「Ziploc」「クックパー」、本田技研工業「FIT SHUTTLE」、大成建設、出光興産、大塚製薬「UL・OS」などを担当。
TCC新人賞、Adfest、OneShow、読売広告賞、日経広告賞、消費者のためになった広告コンクールなど
【「コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常」バックナンバー】
- 「内向きは、無知につながっている」
- 最強の言葉、それは。
- 異業種からコピーライターに転職した話【新人篇】(7/1)
- 異業種からコピーライターに転職した話【フリーター篇】(6/24)
- 異業種からコピーライターに転職した話【会社員篇】(6/17)
- 異業種からコピーライターに転職した話【学生篇】(6/10)
- 2013年5月 古屋彰一「地方での広告づくり」
- 2013年4月 日野原良行「打席はそこらじゅうにある」
- 2013年3月 竹田芳幸「ありがとう。大石さんと石田さん(コピーライターになる編)」
- 2013年1月 平野慎也「25歳、新人コピーライターのリアル。」
- 2012年12月 室山加奈子「Webディレクター、コピーを学ぶ」
- 2012年11月 小野勇樹「いちデザイナーが感じる、言葉の大切さ。」
- 2012年10月 貝洲岳洋「(極私的)広告セレンディピティ(1)」
- 2012年9月 林潤一郎「よく考えない。」
- 2012年8月 小林麻衣子「女子力」より「おっさん力」
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