新スタンダードの創造でヒット、厚紙も切れるはさみ「フィットカットカーブ」――プラス

自社ブランドを進化、超えるはさみでシェア奪還を目指す

プラス ステーショナリーカンパニーマーケティング統括本部第二製品事業部副事業部長 松本竹志氏

2004年に、フィットカットカーブの前身「フィットカット」という製品が発売されました。女性用のフィットカットスリム、子ども用のフィットカットジュニアに万能タイプを加えたこのシリーズは、2011年5月の段階で累計1000万本の製品に育ちました。

しかし2009年、競合品の発売により店頭シェアが下がります。そこで2010年に「自社ブランドのフィットカットシリーズを超えるはさみが作れなければ、一度奪われたシェアを奪い返すことはできない」という意気込みで、これからの10年に通用するはさみ、次世代スタンダードを目指すプロジェクトがスタートしました。

まずはターゲットユーザーの見直しを行い、どういったところで、どういう方が買っているのかを徹底的に調べました。その結果、主たる売り場は量販店やホームセンターで、8割ほどが女性、主婦が購入していることが分かりました。

はさみへの不満・要望の洗い出しでは、切れ味への要望が一番多く、さらにメンテナンスをして長く使用したい、というケースも見られました。またはさみで切るものについては、実は紙ではなく、プラスチックや段ボールを切ることが多く、人によっては植物の剪定(せんてい)に使っていることも分かりました。

こうした調査の結果、開発のコンセプトは自然に明確になり、「家庭で使う新定番あれもこれもサクサク切れる」というフレーズに決まり、切れ味、持ち心地、使いやすさを軸としたはさみの開発を徹底しました。そして軽い切れ味を実現する「ベルヌーイカーブ」と命名した刃の形状を開発。切れ味をサポートするグリップで持ち心地の良いハンドルも設計しました。

付加価値の要素として、切れ味の落ちないチタンコーティング、汚れとさびがつきにくいフッ素コーティングをしたラインアップも用意し、スタンダードタイプと合わせて3種類での発売が決まりました。

異例のはさみ実演販売

製品ができても、これまでの店頭でただ並べるだけの売り方では、カーブの形状の意図や切れ味、といった訴求ポイントが伝わらない、という課題が見えてきました。そこで販売促進部出身の女性プロダクトマネージャーを中心に、販促チームと連携して、すごさを伝えるための「コミュニケーションプラン」を徹底的に考えました。

まず、購買の中心となる主婦、女性の目線で、文房具ではなく生活用品という視点から家庭で使うことを意識したカラーリングと分かりやすいパッケージデザインに見直しました。そこで導き出したのがビタミンカラーとシャーベットカラーという華やかな本体の色。売り場で華やかな色で目をひきます。そしてパッケージには「従来の約3倍切れる」、「アレもコレもサクサク切れる」と切れ味を強調。さらに「ベルヌーイカーブ刃」に興味を持ってもらえれば、本体価格も300円(スタンダードタイプ)に抑えたので、必ず買ってもらえると販売店へ売り込みました。

また切れ味の良さを伝えるために、業界では画期的な、はさみのデモ販売を仕掛けました。実演販売のマーフィー山口さんが来店して、デモ販売を行うと、1日で約1000本売れたこともありました。販売店も効果を実感し、実演販売ができない店舗にはDVDを置くことが定番化しました。営業が持ち歩くツールも作っています。フィットカットカーブのポイントとなる刃のカーブの形状が伝わりやすい分度器ツールと、試し切りセットです。マニュアルも用意して、発売前から営業と店頭のデモ販売に活用しました。

発売後1年半で400万本突破という今回のヒットにつながった最大のポイントは、開発の一側面だけの力ではなく、設計力、企画力、販促力、製造力、販売力といった開発過程での全てのフェーズで100%の力が発揮できたトータルな結果だと思います。そのひとつの力が0%であれば、トータルな結果は0%であったかも知れないのです。今、開発のどの関連部隊も、自分達が力を精一杯発揮すれば、製品というものは必ず成功する、うまくいくという意識が強くなりました。そういった意味で、良い経験ができたと思っています。


(次回予告)
次は、西友です。

販促・集客メディアフォーラム事務局 2013
販促・集客メディアフォーラム事務局 2013
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