シニア市場は、決して巨大ではない
シニア市場は100兆円市場と呼ばれており、一般には非常に巨大なマス市場だと捉えられていますが、実はそうではありません。例えば一人あたりの正味金融資産を年代別にデータで見てみると、40~50代の人よりも60代以上のシニア世代の人のほうが多い。
一方で一人あたりの年間所得を見ると、圧倒的に40~50代の人のほうが多く、シニア世代は約8割の方が年間所得400万円以下だということが分かります。つまり、シニア世代は資産が多いために消費も多いと考えられがちなのですが、実は所得が少ないので日常的な消費は少ないのです。
では、シニア世代はどのようなときに大きな消費をするかというと、まず一つには体の変化が訪れたときです。50代女性の多くは肌の衰えを感じるため、化粧品を購入する人が多い。一方で60代女性の多くは関節痛などによって肉体の変化を感じるため、運動のためのスポーツウェアを購入する人や、スポーツジムへ通う人が多くなります。
次に、ライフステージの変化も消費に大きな影響を与えます。例えば定年退職をきっかけに長期間の旅行へ出たり、子どもの結婚によって保険を見直したり、家をリフォームしたりします。
以上から分かるのは、シニア層の消費とは年齢によって決まるのではなく、一人ひとりの背景にある、シニア層特有の変化によって決まるということ。この変化へ目を向けることが大切なのです。
シニア市場は、多様なミクロ市場の集合体
各世代には特有の嗜好性があります。その世代が20歳くらいまでの期間に経験した、強烈な文化体験「世代原体験」によって形成されます。その典型的な例が「団塊の世代」です。この世代が受けた世代原体験とは、ビートルズやカレッジ・フォーク、グループサウンズやVANといったアメリカ文化です。こういった原体験は、ある程度時間が経過したときに、消費のきっかけとして表面化してくることがあります。
2005年に公開された映画「ALWAYS 三丁目の夕日」は昭和33年の東京を描いたものですが、その時代に10代だった人たちは公開時には40代だった。そしてこの映画を一番見たのは、その40代の人たちだったんです。彼らが懐かしさを感じやすい40代に文化体験を再現することで、ノスタルジー消費を引き起こしました。
それから、定年退職によって時間ができると、かつて行っていたバンドやダンスを再び始める自己復活消費も増えてきます。また、若い頃にはお金や時間がなくてできなかったことをやる夢実現消費もあります。これらは世代特有の嗜好性を理解することで、どんな消費行動として出てくるのかある程度予想できます。しかし、世代特有の嗜好性だけで消費行動が決まることはなく、体やライフステージの変化も考慮に入れなければなりません。
人数が多いシニア市場は、実はマスマーケットではありません。それは、新しい価値観でくくられる、多様なミクロ市場の集合体なんです。ですから世代特有の嗜好性だけを判断材料にするのではなく、まずはターゲットを明確にし、そのターゲットがどんな世代で、いまどんな変化にさらされているのかを探ること。そこから、こんな商品が売れるのではないかと考えていくべきです。
(次回予告)
次は、博水社です。