ロケスタート、市民に「サイン禁止」のお触れ
ロケ開始前から、続々と入るロケ計画に支援関係者は徐々に盛り上がっていましたが、岩手県特有の気質のためか、周辺地域はいたって冷静、どこ吹く風というムードでした。
実際、後日大慌てになった普代村(「袖が浜駅」のモデルである堀内駅がある村)では、当初は担当すら置いていませんでした。自分のところの駅が中心駅となっているにも関わらず、よそ事ムードだったんです。
ところが、11月からロケが始まり、オールキャストが長期ロケで久慈市のホテルに滞在すると一転、一気にムードが高まりました。久慈市は、当時産業振興部長をしていた下舘満吉さんが、ロケ支援などの陣頭指揮をとっていました。
やはり「(久慈市にとって)大チャンス」と考えてあちこち調整にまわったそうで、三陸鉄道の望月社長とともに番組づくりを支えた立役者の一人。元々はディーラーの営業部長をしていた人で、愛想がよく、まさに田舎にぴったりの市役所職員です。
下舘さんは、役者の皆さんがしっかり仕事が出来るようにと市民に「お触れ」を出しました。「役者の皆さんがお店に行っても、決してサインをねだらないように。自然体で接するように」「役者の皆さんを勝手に撮影しないように」と。
滅多に芸能人に会うことのない田舎の住民にとっては、たいへん厳しい内容です。案の定、簡単に破られることも多く、「キョンキョンが百均で買い物していた」とか「宮本信子がラーメン食べてた」「小池徹平がスナックにいた」とか、いろいろな噂が街中を駆け巡っていました。
三鉄では、「全面的に協力します」と宣言した望月社長の言葉通り、職員が全力で支援しました。特に、初夏設定の2月の極寒ロケは大変でした。問題は、雪と氷を除去する作業。ツルツルの道路や線路に貼りついた氷を、三鉄職員がハンマーやつるはしで何度もたたいても一向に取れません。次に、「じゃあお湯をかければ」となり、お湯をかけると、一瞬消えますが逆にすぐに凍って枕木が前よりピカピカに。
夏ばっぱが大漁旗を振る海岸のシーンにも、実は雪が残っています。久慈消防署普代分団の消防車を2台出動して放水したものの、まったく無駄だったのです。DVDでじっくり見直すと、きっと「初夏の雪」が発見できます。(この話は番組終了後、三鉄・久慈駅の橋上駅長が貸切列車のお客さんにネタとして話し、笑いを取っています)。
まだまだ裏話はあります。大半の撮影に協力してきた橋上駅長は、「この苦労って、一生味わえないし、宝物になりました」と話します。社員同士、今では大笑いしながら振り返って裏話に花を咲かせます。女優さんたちの裏話も沢山ありますが、それは当然控えさせて頂きます。直接お会いした時には、ぽろっと出てしまうかもしれません。
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