取材が来る店(4)―付き合い始めの男女の店選び、結婚35年の夫婦の店選び

飲食事業においては、「テレビに出る」「雑誌に載る」といったメディア露出があるかどうかが、その勝敗を左右します。書籍『取材が来る店』では、メディア、店舗設計・プロデュース、店舗経営の三つの実務に精通する著者・吉野信吾氏が、メディアの目を通して見た魅力的な店のあり方や、店を流行らせるための広報術を伝授します。現在、紙版とkindle版を販売中です。

『取材が来る店』著者による連載をお届けします。


吉野信吾(プロデューサー)

忘年会シーズンになると、飲食店へ行く機会も増えてくるものですが、あなたは店を選ぶとき、どんな情報を参考にしていますか。

周囲の口コミ、グルメ情報サイト、店舗の外観……。

「飲食店の利用実態に関する調査」(クロス・マーケティング調べ)によると、「新しい飲食店を選ぶ際に参考にした情報」の第1位は「なんとなく/特に理由はない」という結果でした。

店選びの最後の最後は、気分次第が多いのです。

いくら大がかりな広報活動を展開しようとも、ターゲットの琴線に触れ、「よっしゃ!すぐ行く!」「予約申し込み!」といった、最終決定に結びつかなければ、無駄に終わります。要は最終判断に直結させるような技術がとても重要ということ。

物を買う、食事に行く、ホテルに泊まる……といった、消費行動に至る直前の段階において、右にするか、左にするか、という最終決定を下すのは、マニュアルや規約ではなく、最後の最後は人間の思考、感情、気分によって決まります。しかし、その決断に至る最終理由はあるのです。

例を挙げてみましょう。

(1)付き合い始めの男女
 夜景が綺麗に広がる展望レストランで、口説き落とす作戦を企てた彼氏が、優先順位の1番に挙げたのは、夜景が見えるロケーション。そして窓際の席。もちろん味が良い、サービスが最高、なおかつ安い、ということであれば言うことなしです。しかし、いくら味が良く、安かろうとも、夜景がまったく見えないトイレに近い席、そもそも夜景がまったく見えない地下の店であれば、彼氏の琴線にはまったく引っかかりません。

(2)一方、結婚35年の夫婦。
 夜景が綺麗に広がる展望レストランで、口説き落すなんてことが必要ない熟年夫婦が、優先順位の1番に挙げたのは、安くて美味い料理の店。夜景が見える窓際の席なんて、落ち着かない。しかも味はイマイチ、値段も高いならハッキリ言って却下です。

(1)はとにかく夜景が見えるテーブルが目的。金額や味は二の次です。だからほかのアプローチや売りはまったく役立たちません。(2)は夜景が見えるテーブルなんてどうでもよく、美味くて安い、という質実剛健型。そんな相手に情緒的アプローチは意味がありません。

こうして考えると、人は物事を最終的に判断するとき、「絶対譲れないもの」「絶対優先したいもの」があり、それが決め手となるわけです。

当然、100人いれば優先したいものも100通りですが、仮に「タイプAの絶対譲れないもの」「タイプBの絶対優先したいもの」があった場合、それに対してタイプCやD、Eのアプローチをしていないでしょうか? 宣伝広報の読み間違いのアプローチをしていないか? という点を、いま一度振り返ってみてください。先ほどの例を見れば、料理は美味くないが、夜景の素晴らしいロケーションを売りにしているレストランが、食べ歩き趣味のグルメ客層に対して、いくらアプローチ戦略を展開しても無駄なのです。

ところが最後の最後、最終決断でチョイスされる可能性も実はあります。

20人の大人数で入れる店、というファクターが加味された場合、美味しくても狭い店は条件を満たさない。どんなに食べ歩き趣味のグルメ客層であっても、この場合は、味より入店可能な人数が優先されますから、皮一枚の差でドタキャン的逆転決断が下されるわけです。

 店主がまず考えなければならないことは、自店が最も売りにできることを、それを求めている客層に、確実にアプローチできているか検証してみることです。できないこと、劣っていることを、ことさら頑張ってレベルアップする努力をキッパリ棄て、売りにできることだけをより強力にアピールすべきです。本書では、お客に選ばれる店になるためのポイントを詳しくお伝えしています。


新しく飲食店を選ぶ際に参考にした情報(3つまで)
20~59歳男女1200人が対象 
インターネットリサーチ調査 クロス・マーケティング調べ


吉野信吾(よしの・しんご)
1958年生まれ。黄金期の雑誌『POPEYE』の編集者を経て、商業施設や飲食店舗の設計プロデュースを数多く手がける。投資計画から設計、メニュー開発、運営、経営までの一貫した業務経験が豊富。多彩なマスコミ・ネットワークを駆使したプロモーションと、数多くの出版プロデュースも手がける。ラテンアメリカ・スタイルの内装設計プロデュースの先駆者。日経BP『流行る店』、マガジンハウス『もったいない』など著書多数。

【「取材が来る店」バックナンバー】

いままで誰も書かなかった「取材が来る店」
飲食事業においては「雑誌に載る」といったメディア露出があるかどうかが、勝敗を左右する。メディア、店舗設計・プロデュース、店舗経営の三つの実務に精通する著者が、メディアとの上手な付き合い方や、メディアの目を通して見た魅力的な店のあり方、店を流行らせるための広報術を伝授する。

定価:¥ 1,470円 発売日:2013/6/27

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