しかし、やられたらやり返す、倍返しである。
陸上競技界のスター、カール・ルイスさんが被災地支援プロジェクトで来日する情報を得た国際広報チームは直ぐに関係者との調整を図り、ルイスさんを国立競技場に招きAP通信とのインタビューをセットすることに成功。彼にとっても国立競技場は91年世界陸上で当時の世界記録を打ち立てた場所で、記憶をたぐりながら非常に強いメッセージを発信いただいた。結果、今度はIOCのイスタンブール視察中に、爆発的なボリュームのニュースを世界中に配信することができた。
ちなみに、翌日は東京の最新の独自支持率調査の結果(開催賛成77%)を発表し、さらにトヨタ自動車が招致パートナーに加わったニュースも配信。イスタンブール視察を取材していたある日本の記者さんからは、「執念を感じました」とのありがたい言葉をいただきました。
業界向けのニュースも含めると、東京は2年間で170本以上の英仏語ニュースリリースを制作・配信。4日に1本はニュースを生み続ける、執念のPRバトルだった。
緻密なライバル分析から生まれた「お・も・て・な・し」プレゼン
「お・も・て・な・し」がまさかの大反響となったプレゼンテーションであるが、思い返すとあのパートは、国際広報と制作チームの緻密なライバル分析があって、そこにプレゼンター本人の思いが相まって生まれた、まさに好例だったと思う。
ライバル都市の国際コミュニケーションは常に観察・分析していたが、5月にロシアで開かれた国際会議で、他2都市のプレゼンのビジュアル素材が非常に都市景観に偏っていたことが表面化した。一方で、外国人コンサルタントとの議論においても、東京は魅力的で誰もが行きたい都市であるが、都市景観ではライバル都市には劣る、というハッキリとした外国人目線のインサイトもあった。
あらためてTOKYOのディスティネーションとしての魅力をどう伝えるか真剣に考え、都市景観ではない魅力、つまりそこで感じられること、訪れることで経験できること、人に出会って得られるフィーリング、そういうこの都会(まち)のソフト面にあらためて比重を置いたコミュニケーションをする方向でチームがまとまり始めていた。
滝川クリステルさんとのミーティングで、ご自身が感じる東京の魅力について長時間インタビューした時に「おもてなし」の話が出た。どれだけ都市が発展していっても、それだけは色褪せずに老若男女問わず日本人が持ち続けているもの、そんな風に確信をもっておもてなしを語る滝川さん。国際コミュニケーション戦略とプレゼンターの情熱の歯車はガッチリ噛み合ったのである。
プレゼンテーション制作は、そういう議論を各パート積み上げていく過程で内容がシャープに研ぎ澄まされていく。これだけの大きなプロジェクトで制作に没頭した時間は本当にダイナミックだった。もちろん、さまざまな局面でシニアリーダーの大きな判断があって、全体像は描かれていく。
次回は、招致委員会の戦略広報部、自分自身の過去の経験と招致活動における役割などについて、紹介します。
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2013/10/21 本文の一部を修正致しました。
【「2020東京五輪 戦略広報が明かす勝利の方程式」バックナンバー】
- (3)スポーツ界に戦略広報は必要か?
- (2)マドリッド、イスタンブールとの国際コミュニケーションバトル
- (1)オールジャパン!!