「ともに生きる!ひろげよう防災の輪!復興支援キャンペーン」は、9月1日の防災の日を中心に118社、3432店舗が参加して展開する大規模な環境貢献型キャンペーン。保存可能なレトルト食品や缶詰、飲料水、カイロなどが対象商品で、本キャンペーン用のPOPや外装材を製造するうえで排出するCO2を、森林支援を通じて購入したJ-VERクレジットでオフセット(相殺)するというものだ。
販促・集客メディアフォーラム(9月5日)では、このキャンペーンを主導する企画実行委員会のカルビーカルネコ事業部事業執行担当の加藤孝一氏と、後援する日本スーパーマーケット協会管理渉外部の茂野 隆一氏、そしてカーボン・オフセットフォーラム(J-COF)事務局の秋山 奈々子氏によるパネルディスカッションが行われた。
<パネラー>
カーボン・オフセットフォーラム(J-COF)事務局 秋山 奈々子 氏
日本スーパーマーケット協会・管理渉外部 茂野 隆一 氏
カルビー株式会社カルネコ事業部事業執行担当 加藤 孝一 氏
<モデレーター>
『販促会議』編集長 中澤 圭介
製販一体の新しい販促手法
――「ともに生き」キャンペーンは、メーカー、販売店が参加して力を合わせて行う新しいスタイルの取組みです。
加藤 2013年は、東日本大震災の復興支援を目的とした防災キャンペーンを、8月19日から9月いっぱいまで実施しました。日本スーパーマーケット協会をはじめとする5つの小売り協会に後援いただき、119企業、3582店舗が参加する大規模なキャンペーンになっています。防災グッズ1点につき1円が被災地の森林クレジットの購入を通じて支援に使われます。昨年は2協会1828店舗の参加により、181万円が集まり、被災地のクレジット購入を通じた支援をすることができました。
このキャンペーンで使用するPOPの製造・輸送で発生するCO2をオフセットする、被災地支援と環境貢献がセットになった日本最大規模のキャンペーンとなっています。昨年は、店頭の目立つ場所で、しっかりと「防災」を訴えていくことで、小売店の売上げアップにつながったという報告もあり、今年の成果に期待しています(9月現在)。
「環境配慮」は店頭で受け入れられつつある
――昨年から引き続きスーパーマーケット協会とその加盟企業が参加していますが、プロジェクトに関わるようになったきっかけはどんなことだったのでしょうか。
茂野 加藤さんから被災地の支援に繋がる森林の保全に役立つ「カーボンオフセット」についてスーパーマーケットの協力を依頼されました。被災地への支援と言うことでしたので、防災の日に合わせたキャンペーンを企画しました。
ただ、防災の日の前後は殆どのスーパーが関連したキャンペーンを展開しているので、そこに組み入れるのは難しいという課題がありました。ですから定番の売場でPOPを付けて展開する店舗が多かったのですが、エンドや特設売場でコーナー化し、積極的に該当商品を展開してくれた店舗もありました。環境貢献のできるEVI(Eco Value Interchange)のオフセットクレジットをつけたことは個性が出せたのではないかと考えています。
――店頭でも環境貢献を打ち出すことが優位性につながるということですか。
茂野 少し前までスーパーマーケットの販促企画というのは、安いか高いか早いか遅いかの「レース型」でした。それが近年では「コンテスト型」になってきています。つまり、お客様に、「私はこのお店が好き」「この企業のこの製品」と選ばれる企画でなければいけないということです。つまり、この商品のメーカーは、「環境に取り組んでいる」という姿勢を店頭でわかりやすくお客様に伝えていくことが大切な時代になっていると思います。
――企業間の競争のなかでもこういったキャンペーンが広がっていくことについて、どのように見ていらっしゃいますか。
秋山 カーボン・オフセットフォーラムは、地球温暖化対策の一つである「カーボン・オフセット」を普及促進するために環境省により設立されました。私たちの立場では、実際に仕組みを活用して売り上げにつなげる具体的なアイデアを実行することがなかなかできません。そのため、今回のキャンペーンのようにメーカーさんや流通関係の方々が協力して、店頭という生活者にとって身近な場を通じてたくさんの方に知っていただける機会をつくっていただいたことは本当に意義のあることだと思っています。
アンケート調査などによると、「環境配慮商品を応援したい」と回答する方は多いのですが、現状では、まだ環境に配慮した商品が少ないですし、そういった商品が売っているということも生活者には知られていません。防災と組み合わせていく「とも生き」キャンペーンは、これからもっと広げていただきたい取組みの一つです。
さらなる浸透への課題と展望
――今年度の取組みを踏まえて今後の課題はどんなことでしょうか。
加藤 参加店舗を訪問してみて、必ずしもすべてのお店で大々的なキャンペーンになっていないことがわかりました。一方で、POPつきで目立つ位置に陳列されている店舗では、お客様は立ち止まって見ていただいていることが確認できました。
「被災地から発生するクレジットを購入することで、被災地の環境を守る」というテーマは少し重いものですが、マーチャンダイジングをする人の伝えたい「思い」があれば、お客様にも伝わると感じることができました。
茂野 そうですね。実施のカギはやはり店長さんの環境に対する意欲だと思います。協会でも働きかけはするのですが、協会の窓口の方は比較的総務関連の人であることが多く、実際に動くマーチャンダイザーや売場の担当とは温度差があるケースも見られます。
加藤 これまで実行委員会として動いてみて明らかになってきた点としては、売り上げにつながる方法をスピーディに各社で共有する必要があるということです。委員会の会合で、いろいろ話し合っていると「こういう売り方をしたら成功した」「売り上げが伸びた」といった話が出てくるのですが、タイムラグがあると情報を活かすことができません。
だから、こういった社会的意義のあるキャンペーンでは、「あの会社のバイヤーはこんなことを言っていた」「今度A社のバイヤーに訪問することになった」といった情報が、企業の壁を超えてリアルタイムで情報を共有していく仕組みをつくっていかなければならないのではないかと感じています。
秋山 こういった取り組みが継続されて当たり前のものになり、どこのスーパーに行っても環境配慮商品が買えるという状況になってほしいと思いますね。
茂野 実は協会の会員企業でも、省エネや3R(リデュース、リユース、リサイクル)に努めています。店舗での加工の際に出てくる野菜くずなどの残渣を肥料や飼料にしてそれを使った商品を販売する等リサイクルループを実現させ、地域とともに環境に取組んでいる企業は増えています。
ですが、お客様に環境配慮商品を提供するというのはまだこれからです。その意味で、メーカーさんが環境配慮商品のラインアップを拡大してくれると店頭でもキャンペーンを盛り上げやすくなります。
秋山 3Rの浸透では、小売店でのエコバックや食品トレーの回収が大きな役割を果たしてくれました。やはり、生活者の理解を深め、行動に広げていくには小売店の果たす役割は大きいと思います。欧米ではグリーンコンシューマーが増えていると言われています。日本でもグリーンコンシューマーが増えていくことに期待しています。
加藤 昨年11月に、EVI推進協議会主催で、環境保全に取り組んでいる方々と環境配慮に関心のある企業のマッチングイベントを開催しました。その場で参加企業の方々のリアルな声から、「環境貢献したいけれども、実際にどうやったらいいかわからない」という人が実に多いことがわかりました。
たとえば、「森林保全ボランティアに行きたい」という人は4割。一方、ふだんの買い物を通して環境貢献ができるならやりたいという人は7割超。1割高くても環境貢献商品を買うという人も7割程度いることがわかっています。
にもかかわらず、ふだんの買い物を通して環境貢献できる商品がないのが現状です。そういったキャンペーンもありません。だから、「環境貢献型キャンペーンでは売れない」のではなく、お客様は求めているのに、提供するメーカーや販売店がそれに応えられていないというのが実態ではないかと思います。しかし、そうした取り組みが知られなければ売れません。いまは過渡期なので、お客様に環境配慮商品・キャンペーンの存在やどんなふうに配慮しているのか、情報を伝えるパワーが必要です。この取り組みは来年も続くので、多くの企業の皆さんが参加していただけることに期待しています。
次回はNo.18 三越伊勢丹ホールディングスです。