飲食事業においては、「テレビに出る」「雑誌に載る」といったメディア露出があるかどうかが、その勝敗を左右します。書籍『取材が来る店』では、メディア、店舗設計・プロデュース、店舗経営の三つの実務に精通する著者・吉野信吾氏が、メディアの目を通して見た魅力的な店のあり方や、店を流行らせるための広報術を伝授します。現在、紙版とkindle版を販売中です。
『取材が来る店』著者による連載をお届けします。
吉野信吾(プロデューサー)
「クリスマス・イブの日に、彼女と行く店を探したい」「忘年会の会場を決めなければ!」そんなとき、「他人の意見を参考にして店を選びたい」という心理が働きます。
「失敗したくない」「せっかく行って不愉快な思いをしたくない!」という気持ちから、グルメサイトに寄せられたコメントを参考にする人もいるはずです。店に行かずしてある程度の情報が得られるのですから、いまでは利用しない人のほうが少ないくらいでしょう。
店についての論評をサイトに書きこむ人たちは、生まれ育った環境や、エンゲル係数も異なる人たちですから、その評価基準には振れ幅があります。しかし閲覧するユーザーの意識はそこまで至りません。見ず知らずの人のコメントを見ながら、「ふむふむ、そんな店だったのか」と先入観をビビーッと浴びせられてしまうのも事実です(本書では、こうした電子クチコミに、店主はどのような心構えでいる必要があるのかを書きました)。
少し前までなら、この手の情報を身近で聞ける先輩や知人がいたものです。あなたの生活状況や人柄をも熟知したうえでアドバイスをしてくれる、いわゆる人生の先輩、食通の先輩が。
例えば、「小林さん、先日銀座の有名店XXXに行ったんだけど、酷い扱いされて無駄金使ってしまいましたよ」とグチをこぼせば、「何言ってんだよ。どうせオネーチャンか何か連れて気張って奮発したんだろうが、あそこはお前が行くような店じゃないんだよ。もう少し身の丈に合った店を教えてやるから」というように、飲食であれ風俗であれ、「失敗した」と口走ったならば、必ず「高い授業料だと思いな」と、言われたものでした。
これを一言で「昔の話だろう」と、片付けてはいけません。この意味するところは、貴重な情報を得るには、お金を使って経験するしかない、ということなのです。
生まれてから大学卒業まで約20数年間、そのうち学歴は約15、16年。日本人の平均寿命が80歳として、食歴は死ぬまで続きます。働いたお金で飲み食いをするという自腹を食歴とみなしても、約60年弱の食歴は、膨大な支出と、時間に裏打ちされているのです。
そうした投資は、単なる排泄物となって流れてしまうだけかもしれませんが、その結果得るものは、きらびやかに光り輝くダイヤモンドのような資産ではなく、自分自身の貴重な知識と経験、感覚という資産として身に付くのです。会食の機会が増える年末、あなたの食歴を意識して飲食店に足を運んでみてはいかがでしょうか。
吉野信吾(よしの・しんご)
1958年生まれ。黄金期の雑誌『POPEYE』の編集者を経て、商業施設や飲食店舗の設計プロデュースを数多く手がける。投資計画から設計、メニュー開発、運営、経営までの一貫した業務経験が豊富。多彩なマスコミ・ネットワークを駆使したプロモーションと、数多くの出版プロデュースも手がける。ラテンアメリカ・スタイルの内装設計プロデュースの先駆者。日経BP『流行る店』、マガジンハウス『もったいない』など著書多数。
【「取材が来る店」バックナンバー】
- 取材が来る店(4)―付き合い始めの男女の店選び、結婚35年の夫婦の店選び
- 取材が来る店(3)―「気=金=ホスピタリティ」
- 取材が来る店(2)―「お店の広報は、雑誌に限る」という理由
- 取材が来る店(1)―飲食店でのタブーな宣伝・広報活動ってな~んだ?
飲食事業においては「雑誌に載る」といったメディア露出があるかどうかが、勝敗を左右する。メディア、店舗設計・プロデュース、店舗経営の三つの実務に精通する著者が、メディアとの上手な付き合い方や、メディアの目を通して見た魅力的な店のあり方、店を流行らせるための広報術を伝授する。
定価:¥ 1,470円 発売日:2013/6/27