笑ってもらえる鉄道会社に
クスッと笑ってもらえる「ジョークの鉄道会社」のイメージを高めようと、さまざまな企画にも取り組みました。その中の一つに「商品開発」があります。地元の食材を使って三鉄のオリジナル商品を作り、地域貢献しようと考えたものです。2010年4月に「美味非常食」という震災食を作りました。どんな震災が来ても、救援が来るまで美味しい物を食べて凌ごうとするジョークでした。一流のコックに缶詰にしても美味い料理を創ってもらいました。
ジョークでつくった「美味非常食」(左)と「きっと芽が出るせんべい」(右)
また、万年赤字の三鉄に同情するというコンセプトで「きっと芽が出るせんべい」をつくりました。いずれも大震災後爆発的に人気が出て、在庫がふんだんにあった「きっと芽が出るせんべい」は、震災後の現金収入として極めて大きな貢献につながりました。
こうした商品開発、企画列車のニュースは、必ずメディアにも伝えました。県内のメディア各社は大いに取材協力してくれました。もちろん依頼するだけではなく、三鉄の物産を土産に、暇さえあればテレビ局や新聞社を回り、お茶のみ話を続けてきました。名も無い三陸鉄道の名前を発信する、その重要性を社員に繰り返し訴え、リリースのつくり方やメディア対応の仕方を指導してきました。
ユイちゃんとアキちゃんのモデルの話
ところで、「あまちゃん」のユイちゃんとアキちゃん。この2人のイメージを宮藤官九郎さんはどこから得たのでしょう。
推測すると、2つの説が思い浮かびます。1つ目は「久慈ありす」で、玩具メーカー・タカラトミーの子会社が開発した、実在の鉄道事業者の現場で活躍する制服を着たキャラクターコンテンツ「鉄道むすめ」の1人です。
「久慈ありす」のモデルは、三鉄初の女性運転士のSさんと言われており、当時は美人で大変な人気だったようです。「久慈ありす」は祖母が海女さんで海鮮丼が大好物。誕生日は11月3日で、毎年三鉄まつりには、「久慈ありす」ファンが誕生日を祝うため、全国からフィギアなどを持って駆けつけます。ちなみに岩手県知事の達増(たっそ)拓也知事も大ファンで、「うちの嫁」などと公言しています。
もう一つの推測は、本物の小袖海岸の「美人すぎる海女」です。すでに海女は辞めてしまったため、久慈市にとってはある意味のトラウマになっています。当時、美人のOさんと小柄で愛くるしいKさんの2人が大ブームになり、報道陣が多数押しかけました。久慈市も市の活性化の救世主として2人を盛んに使い出しました。が、こうした過熱報道に嫌気が差し、2人とも海女をやめてしまいました。
さまざまな憶測がありますが、沈静化した時に再び「海女」が脚光を浴びたのですから、久慈市にとって「海女」というコンテンツは非常に有効だと分かります。
「久慈ありす」がモデルか、実在した海女さんがモデルか。はたまた宮藤さんの空想か。想像が膨らみます。
NHKのプロデューサーや宮藤さんが、どこまで三鉄のストーリーを知っているのかは確かめていないので分かりませんが、元々持っていた「本物」の素材、物語を知ってもらうきっかけになったという意味では、大いに感謝しています。