相手に触れるところから考える
僕が一番好きな池谷さんの持論があるんです。釣りをするとしたら何から買いますか? だいたい、ハデなものから思い浮かべると思うんです。ロッド(釣竿)やリール(釣糸を巻く道具)、ルアー、ライン(釣糸)…って。でも池谷さんは、「何より真っ先に考えるべきものがある。それは針だ」と言うんです。
「釣りは、釣針から始まるんだ。唯一、魚と人が接するところじゃないか」と。魚の口にかかるのは針。必要以上に傷を与えてはいけないし、逃げてしまうのもダメ。釣ったのなら揚げることが大事というのも彼の哲学です。「だから、まず自分に向いた針を探すこと。次にルアーと針をつなぐ金具、ラインとルアーをつなぐ金具、それからライン、リール、最後がロッドだよ」と池谷さんは話します。
僕が話を聞いたなかで、そんなことを語った釣り人はいませんでした。感度の高いロッドやら、新型のルアーやら、切れない糸ではなく、魚との接点から考えろと聞いて、自分でも反省しました。確かに、釣りは、魚と触れ合うのが楽しいんですよね。
いま、このことを仕事に引きつけて考えると、編集でも同じだと思います。読者との接点、誌面に彼らが触れたときに何を得るのか、何を思うのか、本当に読者のヒントになることは何かそこから発想するべきだと思います。自分の手元から考えてはいけません。
たしかにターゲットにしたい層ですとか、部数は大切です。釣りでも「ここにこんな魚がいるから網を入れろ、こんな餌を撒け、そうすれば大量に獲れる」という方法はあります。けれど僕は、やはり魚一尾、読者一人との出会いが好きだし、その繰り返しで自分のやり方を体系化していきたい。
池谷さんにとって僕は「『ソトコト』の編集長」ではなく、いまだに高崎の釣りボウズ。年に一度もお会いしないのですが、池谷さんは僕のなかで不思議と色あせない人です。きっと、自分の素に戻れるからなんでしょうね。(談)
指出一正(さしで・かずまさ)
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長、『ソトコト』副編集長を経て、現職。ロハス発祥の地、アメリカ・コロラド州ボールダーや、アフリカ、アイスランド、中国の現地取材を担当。趣味はフライフィッシング。民俗学や手仕事の分野にも興味があり、両方の要素から東北に惹かれ、出かけることが多い。昔の日本人に通じるひとつの村の暮らしぶりが見える地域も好きで、充電のため、アマゾン、パプアニューギニア、モンゴルなども旅する。ダウン症の子どもたちが集まるお絵かき教室「アトリエ・エー」には、6年半前からスタッフとして参加している。高知県文化広報誌『とさぶし』編集委員。島根県「しまコトアカデミー」講師。「みちのく起業」第二期ファンド選考委員。地域若者チャレンジ大賞審査員。
※編集者・ライターを目指すなら!【編集・ライター養成講座の情報はこちら】
【編集会議コラム〜コンテンツの裏側潜入!〜 バックナンバー】