イケアのデザインはなぜ“良い”のか

パッケージのメディア特徴は購買に近いことだ。パッケージを見る人は、商品の購入をその場で検討している人である。それだけ、販売促進におけるパッケージデザインの役割は大きい。パッケージデザインを手掛けるアイ・コーポレーションの小川亮氏に、優れたパッケージを紹介してもらう。

ここでは、『販促会議』2013年11月号に掲載された連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。
(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)



イケア「マイルドマスタード」。パッケージデザインに無駄がなく、
印刷の色数も最低限に抑えていながら、高いデザイン性を実現している。

先日、イケアでマスタードを見つけた。シンプルで無駄がなく、なんともかわいらしいパッケージだ。このパッケージデザインから分かることは、イケアのデザイン力の高さである。

イケアはスウェーデン発の家具専門店で、独自のデザイナーを抱え、商品企画から製造、販売まですべてを自社で行うビジネスモデルが特徴だ。日本には1974年に進出している。スウェーデンのデザイン力は昔から世界的に高く評価されており、05年には政府が資金を拠出するなどして優秀なデザイナー、デザイン産業の育成に取り組んでいる。この環境が、イケアのデザイン力を支える土台になっているのは間違いない。しかし、理由はそれだけではない。

同社では「価格もデザインである」というスローガンを掲げ、デザイナーは“コストがかからないデザイン”を徹底的に追求する。設計と製造の間を行き来しながら、低コストで商品が作れるデザインを生み出していく。例えば、イケアの家具にはフラットなデザインのものが多いが、これも加工をできるだけ減らし、運送費を抑えるための工夫である。

もう一つのイケアデザインの強みは、デザイナー名を明記する点である。同社の商品カタログには、各商品のデザイナーの名前や顔写真が掲載されている。

デザイナーに限らず、自身の名前が世間に提示されるということは、仕事のやりがいにつながるものだ。この取り組みは、インハウスデザイナーの能力を最大限に引き出す仕組みと言える。しかも、そこにかかるコストはほぼゼロだ。

そもそも、イケアをはじめスウェーデンのデザインは、シンプルで機能性の高いイメージが強い。そこには、北極圏に近いという厳しい自然環境の中で商品やデザインが生まれてきた背景があるように思う。以前、スウェーデンのデザイナーの方が「私の田舎では、冬は雪に囲まれて1日中人に会わないこともある。そんな状況だから『人と人とが助け合わないと』という気持ちが根底にあるのです」と話していたのを思い出した。

機能性を重視したシンプルなデザインの中に、ほっとする温かみを感じるのは、こうした背景があるからかもしれない。今回のマスタードのパッケージにも、どこか温かみを感じるものがある。

もう一つ、このデザインが教えてくれる大切なことは、「パッケージはそれ自体で商品価値をつくることができる」ということである。日本の家庭ごみの約6割は商品パッケージが占めるという。パッケージデザインにかかわる者としては寂しい話だが、ごみになるパッケージが多くある中で、「パッケージが欲しい」「中身を使った後にパッケージを再利用したい」「パッケージを飾りたい」……そんな購買動機を生み出せるパッケージデザインを目指したいものだ。イケアのパッケージはその一つの答えだと、私は思う。

■プロフィール
小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。


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