※『宣伝会議』にて、宣伝会議主催のクリエイティブ・ライティング講座と連動して連載中の「いま企業に求められるクリエイティブ・ライティング」より抜粋。本記事は2013年10月号に掲載されたものです。
クラシエ ホームプロダクツの事例
トイレタリー商品や基礎化粧品、日用雑貨の製造・販売を手掛けるクラシエ ホームプロダクツ。2010年に発売20周年を迎えたヘアケアシリーズ「プロスタイル」や、2014年に発売20周年となるスキンケアシリーズ「ナイーブ」など、ロングセラーブランドも多い。
カテゴリーマーケティング部スキンケアグループの神保文子さんは、これまでの6年間、ヘアケアカテゴリーの宣伝・広告を担当してきた。「入社後の4年間、営業を経験したのち、かねてから希望していた宣伝部門へ。当初は、先輩社員とともに『プロスタイル』を担当しました。異動から半年ほどが経ち、ちょうど一通りの業務を習得し終えた入社5年目の2009年3月、新たなヘアケアブランド『プロスタイルFuwarie(フワリエ)』の立ち上げに携わることに。4年間このブランドに関わる中で、商品の特徴を伝え、購買行動につなげる言葉の役割と重要性を痛感しました」(神保さん)。
フワリエのターゲットは、10代後半~20代前半の女性で、ヘアアレンジのためにアイロンやコテを日々使っている人。当初から社内の期待も高い商品だったが、発売直後は、思うように売上が伸びず、非常に厳しい状況に追い込まれたという。そこで同ブランドは2010年、大幅なリニューアルを実施し、商品内容、パッケージ、宣伝・広告とも一新して再スタートを切った。「社長からも、これがラストチャンスと言われていました。『こうなったら、無難な道に走らずに、思いきり挑戦してやろう』という意気込みで取り組みました」(神保さん)。
リニューアルにあたり、宣伝・広告ではキャッチフレーズに徹底的にこだわった。ターゲットに真に刺さる言葉とは何か。それを見つけるために、改めてターゲットのインサイトに立ち返り、彼女たちとブランドとの接点を徹底的に考え抜いた。またターゲットに対する理解を深めるだけでなく、彼女たちに響く表現のトーン&マナーを体得しようと、たくさんのティーン雑誌にも目を通す日々。「雑誌の編集部の方や、ティーン世代に詳しい広告会社の方にお話を伺う機会も多くあり、とても参考になった。聞いたことをただ鵜呑みにするのではなく、『自分だったらどう言うか』を考えて、議論を交わし、効果的な広告づくりにつなげていくためには、言葉の力を磨くことが不可欠と、日々実感しました」。
「アイロンやコテは毎日使いたいけれど、髪の傷みが気になる」「うまく巻けるか心配」…。そんな悩みを持つ人に響く言葉とはどんなものか。何を伝えれば買ってくれるのか――。「そうしてたどり着いたキーワードが、『髪ヤケド』でした」(神保さん)。「髪ヤケド」とは、高温のアイロン・コテによる急激な温度変化によって、髪がダメージを受けて水ぶくれができた状態のこと。「『髪ヤケド』という状態があることを知らない人も、少なくないはず。そのメカニズムを詳しく説明しても、理解されないし、目を留めてすらもらえないかもしれませんが、『髪ヤケド』は、ワンワードでその状態をイメージさせ、商品に対する興味・関心を獲得することができる言葉。これに合うコピーを作り、それをあらゆるチャネルで展開することにしました」。
「フワリエなら、髪ヤケドに負けずに巻ける!」――このコピーを、卸店用商談パンフレット、新商品カタログ、店頭販促物、雑誌広告、ブランドサイトといったあらゆるチャネルで一気通貫して打ち出している。写真は、営業向け説明資料。
そうしてできたメインコピーが「フワリエなら、髪ヤケドに負けずに巻ける!」。「負けずに」で、「髪ヤケドを防ぐ」商品であること、「巻ける」で、「アイロン・コテ用の」商品であることを端的に表現した。このコピーは、あらゆるチャネルで一気通貫して打ち出していることに加え、リニューアルから4年経った今も、変わらず使い続けている。「思うような成果が得られないと、広告コピーはつい変えたくなるもの。しかし、商品特性やブランドイメージをターゲットの間で浸透させるには、ある程度の時間がかかる。一度決めた言葉で伝え続けるということも大切だと感じています」(神保さん)。
キャッチフレーズを変えない代わりに、イメージキャラクターには、旬の読者モデル・タレントを起用し、ブランドの鮮度を維持・向上している。ターゲットに強い影響を与える、“読者モデル”が発する言葉として、サブコピー「こんなにきれいに巻けちゃってイイんですか?」を設定。ターゲットと同じ目線に立った言葉で、商品の魅力をアピールしている(写真は『Popteen』5月号)。
ロングセラー商品をつくる言葉
5月に異動が決まった神保さん。次なる担当業務はスキンケア商品の開発だ。「言葉の力は、商品開発の現場でも役立つと思います。商品パッケージの限られたスペースの中で、ターゲットに刺さる言葉で商品の特徴を的確に伝え、購買行動にまでつなげなければなりませんから。作り手は商品に情が湧いてしまい、ついいろいろな情報を詰め込みたくなってしまいますが、相手に伝わることはほんの一部。10言って1しか伝わらないなら、その1をしっかり伝えるために、言葉の整理をする必要があります。商品パッケージは、宣伝・広告以上に同じ言葉を使い続ける傾向が強いので、最初の言葉選びが、より重要になると思います」。
今後の目標は、「お風呂が嫌いな子どもを減らす」ことだ。「子どもにとって安心できて、楽しくて、かつ分かりやすい商品を作り、その特徴を言葉で伝え、商品を好きになってもらう。そうして大人になって子どもができたら、その子にも、また同じ商品を使ってほしい。長く愛される商品を作るために、言葉の力をさらに磨きたいです」。
「宣伝会議」創刊60周年記念事業の一環として開講。コピーライティングのノウハウを基に、日常のビジネスで「人を動かす言葉の使い方」を学ぶ。
※「クリエイティブ・ライティング」は宣伝会議の登録商標です
【クリエイティブ・ライティング講座 バックナンバー】
- お米の魅力をどう表現するか──いま企業に求められるクリエイティブ・ライティング(1)
- 社内の言葉にも“How to say”のスキルが必要!「伝わり、動かす」言葉の担い手は企業組織の活性化に貢献できる(1)
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