早稲田大学は、11月1日、「研究院フォーラムin 盛岡」を岩手県盛岡市の「観光文化交流センターおでって」で開催した。「海・内陸・山の連携を求めて―震災復興における持続性と広域協力の構築」というテーマで、2年半あまりにわたる東日本大震災復興研究の成果などを報告。復興研究拠点・自然文化安全都市研究所(所長:中川武理工学術院教授)の実績紹介のほか、同県大槌町の碇川豊町長、岩手大学農学部の三宅諭准教授、岩手日報の榊悟報道部次長ら被災地の関係者がパネリストとして参加し、震災復興をめぐる諸問題について活発な議論が交わされた。
同フォーラムは、研究院長の谷藤悦史教授(政治経済学術院)による「東日本大震災は科学の無力さをつきつけた。科学の信頼の揺らぎに直面したが、その科学を再興させることが、まさに被災地支援、復興支援につながる」などと挨拶をして開会を告げた。
その後、中川武教授は「伝統芸能と祭り」と題して、2012年春に早稲田大学と中国・清華大学の学生が大槌町で行った住民・行政参加型のワークショップを紹介。現地調査・現地住民との対話を通じて、地域社会機能が失われ、高齢化問題が深刻化する大槌町の社会的・文化的課題に対応する、学生たちの設計案を披露した。
中川教授は「早稲田と中国の学生が一緒になって討論し、大槌町の高校生にも加わってもらった。安全を保ちつつ、海を見ながら暮らしたいという要望をかなえるために、高台への避難をどのように街の計画に組み込んでいくか。祭りの巡航路を海から山への縦の線を強力に印象付けるような経路に作り直していこうという学生たちの案がでた。対策が共同体や地域の変貌と結び付いているのかどうかを踏まえて、大槌の計画を通してぜひ、復興を実現したい。また、岩手沿岸には廻り神楽と称し、広域の家々をまわる神楽が存在する。今後はアジアの伝統芸能の祭典が東北で行うことができないかとも考えている」などと語った。
続いて、早田宰教授(社会科学総合学術院)は「共に創る岩手の未来(生活産業と観光)」をテーマに講演。首都圏での地元特産品の販売などのネットワークづくりが進んでいる事例などを紹介した。地域の文化・風土を生かす小さな町の「スロー・シティ」を目指すべきだとして、「3.11の前に戻すだけでは意味がない。復旧することと、次世代への準備をすることは本質的にサイクルが異なり、東北の魅力を生かして人々の暮らしを発展させるにわどうすればよいか、お仕着せではない真の創造的復興を探る必要がある」と述べた。
パネルディスカッションでは、「阪神大震災や新潟県中越地震での復興の経験を、そのまま東北にあてはめるのは間違い」「平時から地域と専門家の関係ができていないと、いざというときの住民参加型街づくりが難しくなる」「岩手県内でも内陸部では震災が風化してきている」「防潮堤にしても、復興交付金にしても、国のお伺いを立てなければ、街づくりができず、一向に進まないという面がある」「経済優先ばかりでなく、心の豊かさを築いていくべきだ」などと、意見を交わした。
このほか、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの学生や岩手大学の学生によるボランティア活動の報告や、大槌町民の伝統芸能「臼澤鹿子踊り」なども披露された。
早稲田大学のほか、法政大学や明治大学、法政大学等、首都圏の大学のほか、石巻専修大学や宮城大学、東北学院大学等被災地域にある多数の大学が被災地と復興支援のための連携活動を行っている。時間の経過とともに、震災の記憶が薄れるなか、この経験を活かすため、今後は研究や支援活動に関して、大学間の知識共有などにも期待が寄せられる。