それまで情報公開法を使ったこともなく、まして外国の政府機関への請求である。どれだけの資料が公開されるのか見当もつかなかったが、半信半疑で請求したところ、送られてきた資料は、いずれも驚くような内容だった。いかにカナダ産LNGが割高であるかを示していただけでなく、日本側のこんな発言が記された文書まで含まれていたのである。
「カナダ産LNGの輸入によって、コストがアップしても、その分は電力料金に上乗せするので問題ない。このことは通産省も了解済みである」――。
電力料金の値上げは、国会の同意が必要と法律に定められている。にもかかわらず、同プロジェクトの推進者たちは、自分たちで勝手に値上げを決め、通産省もまたそれを黙認していたのである。
国会軽視も甚だしいこの発言を報じたところ、衆参両院議員が一様に激怒し、このプロジェクトはあっさり潰されてしまった。
週刊誌の記事一本で、それまで何年もかけて進めてきた"国家プロジェクト"が、いとも簡単に消え去るのを目の当たりにした時、活字の威力を心底実感したものである。その後も年金問題を取材するなか、この実感は増すことになった。
取材の面白さは、事実を発見する喜びにある。その魅力に取りつかれてしまったことで、どうにも効率の悪い仕事しかできなくなった。しかしこれは、致し方のないことなのだろう。
岩瀬達哉(いわせ・たつや)
ジャーナリスト
社会保障審議会・日本年金機構評価部会委員、年金記録問題に関する特別委員会委員。1955年、和歌山県生まれ。2004年、『年金大崩壊』&『年金の悲劇−老後の安心はなぜ消えたか』で第26回講談社ノンフィクション賞受賞。2005年、「伏魔殿 社会保険庁を解体せよ」で文藝春秋読者賞を受賞。近著に『血族の王—松下幸之助とナショナルの世紀』(新潮社、2011年)などがある。
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