変で素直な人が向いている
谷山:僕はいつも「企画に向いているのは、変で素直な人」と言っているんです。「変」というのは、人とは違うことを考えられるということ。
「素直」というのは、他の人と同じように感じられるということ。世の中には「普通で素直な人」と「変で頑固な人」は多いのですが、採用するならできれば「変で素直な人」が一番。それ以外なら、変で頑固な人を採用して教育するほうがいい、と。
あの人は、こう感じる。この人は、こう感じる…。そうやって他人の感じ方を教えて、頑固な人を素直にしていくことはできるんです。先ほどの話の「気付きがあって、変わる」ということが大事なんじゃないかと。
福里:わかります。僕も頑固だったからダメだったんでしょうね。でも、変ではなくて、「頑固で普通の人」だったような気も…。
谷山:福里さんの言う普通を僕は「素直」と表現しているのかもしれないです。頑固で自分らしさにこだわりすぎると、すごい資質を持っていても発揮できないまま終わってしまうこともありますよね。
福里:確かに。ピカソですら、あれだけころころ作風を変えてるわけですから。あんまり頑固すぎないほうがいいですよね。そもそもこの仕事って、ちょっと気楽にやったほうがいいんじゃないか、と思うんです。
広告の仕事は、どんなに自分が「この企画がいい!」と思っていても、ちょっとしたことで実現しないことも多いですよね。それに、できあがるまでに多くの人がかかわるものでもありますし、あんまりかたくなにならずに、ちょっと気楽なぐらいでちょうどいいと思うんですけど。
谷山:自分で企画を考える作業の時には、気楽になってはいけないですけど、でも、プレゼンの段階になったら「この企画しかありえない!」みたいなこだわりは僕もないです。
福里:なんていうか、気楽につくったほうがヒットするということもあります。根を詰めすぎてつくると、完成度は高いけれど、出来上がったCMがどこか閉じた感じになりますよね。
「こんな感じかな…」と少し気楽につくったほうが、隙ができるし、それがCMには合ってるんじゃないかと。人がボーっとしてる時に見るのがCMなわけで、そのボーっとしている気分と地続きの感じがあるほうがいいのかもしれないな、と。
谷山:それ、わかります。大貫(卓也)さんも、そういう隙をあえてつくっていたなと思います。
大貫さんは、すごいクレバーな人だから、やろうと思えばコピーも書けるし、カメラも回せる。一人で全てできてしまう人なんです。でも、一人でつくるものは完璧すぎて、閉じた感じになるとわかっていて、あえて僕とか中島信也さんを入れていたんだな、と。
例えば「日清カップヌードル」のCMで、最後の「Hungry?」のナレーションを当初、大貫さんは「囁くように」言うと考えていたんです。それを、中島さんが当時の外国人野球選手を起用して、吠える感じで言ったほうが良いのでは、と提案して、大貫さんはそれを採用したんですが。あのCMは、あそこでちょっとした俗っぽさが入って、世の中とつながりができたと思うんです。
福里:一人の人間が「1箇所も嫌いなところがない」と思うようなCMは、その人の感性に完璧に合うばかりに、閉じてしまうんでしょうね。
谷山:映画でもそうですよね。あのチャップリンですら、晩年には監督から主演まで全部自分でやって、失敗してしまったのは有名な話。特に広告には、俗っぽさが必要ですし。
(次回に続く)
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1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。いままでに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」など。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを、数多くつくりだしている。
【連載】「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」――福里真一
1、はじめに
2、第1回「電信柱の陰からおずおずと語りはじめる」
3、第2回「幼稚園では藤棚の柱の陰だった」
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(1)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(2)
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特別対談「企画に向いているタイプとは?」(1)
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