「私の広告観」
ヒット作品や話題の商品の作り手など、社会に大きな影響を与える有識者の方々に、ご自身のこれまでのキャリアや現在の仕事・取り組み、また大切にしている姿勢や考え方について伺います。
人の心をつかみ、共感を得るためのカギとなることとは? 広告やメディア、コミュニケーションが持つ可能性や、現在抱えている課題とは?
各界を代表する"オピニオンリーダー"へのインタビューを通して、読者にアイデア・仕事のヒントを提供することをめざす、『宣伝会議』の連載企画です。
【連載】「私の広告観」
私の広告観(1)注目高まる『半沢直樹』原作者・池井戸潤さん
私の広告観(2)ギョギョギョ!世界で通用する、さかなクンの“ギョ”ミュニケーション ー こちらの記事です。
私の広告観(3)壇蜜さん「広告のお仕事に呼ばれたら、きちんと『おつとめ』を返せるような存在でありたい」
さかなクン/魚類学者
魚に関する豊富な知識と、底抜けに明るいキャラクターがお茶の間で大人気のさかなクン。「お魚の魅力を独り占めするのはもったいない!」と話すさかなクンの、コミュニケーション術に迫りました。
(「宣伝会議」2013年11月1日号紙面より抜粋)
小さな頃から絵を描くのが大好きで、お魚に興味を持つまでは、ダンプトラックやごみ収集車などの絵をよく描いていました。小学生の時、タコの不思議なかわいらしさに夢中になったのが、お魚に興味を持ったきっかけです。小学6年生の頃には、すでに“魚道”を究めていきたいという夢を持っていて、卒業文集にも「将来はお魚博士になって、自分で調べたことや、描いた絵をまとめて図鑑を作りたい」と書いていました。
そうして、中学生、高校生といろいろなお魚に出会い、見て、描いて、食べて、調べているうちに、動物園や水族館のお仕事に自然と興味が湧き、動植物について学ぶ専門学校に入学。1年目に東海大学海洋科学博物館、2年目にサンシャイン国際水族館で実習をさせていただきました。
「一日中お魚を見て、研究したり、絵を描いたりできる♪」と思っていたら大間違い。飼育員のお仕事は、掃除や大量のエサ作り、水温・水質の管理と、想像以上に大変なもので、お魚そのもののこと以外にも覚えなければならないこと・やらなければいけないことがたくさんありました。それに、お魚以外のさまざまな水生生物が飼育されているので、急にイルカ担当になったりすることもあります。
お客さまにいかに興味を持ってもらい、自然界での水生生物の暮らしをいかに伝えるかということに重点が置かれていますから、お魚たちの健康を維持する環境づくりやお客さまが見やすい展示方法の工夫など、さまざまなことに意識を向けなければならず、「お魚、お魚、お魚、お魚に没頭!」というわけには、いかないんですね。
専門学校を卒業した後は、熱帯魚屋さんからスーパーの鮮魚コーナー、お寿司屋さんまで、お魚に関わるいろいろなお仕事をアルバイトで経験しました。
大きな転機になったのは、お寿司屋さんでのアルバイト時代。そのお店の大将とは、僕が高校生の頃に出演したテレビのクイズ番組をきっかけに親しくなった間柄でした。いくら教わってもシャリが握れないわ、配達では迷子になるわという仕事ぶりでしたが、大将が「さかなクンが描く魚の絵は、表情があって面白い」と言って、店内の壁一杯にお魚の絵を描かせてくれたんです。
それが思いのほか好評で、他にもいくつかの飲食店から声を掛けていただき、壁画を描くことに。そしてこの活動に興味を持ったテレビ番組に、密着取材をしていただきました。その番組をたまたま見ていて、自分に興味を持ってくれたのが今所属している事務所の会長です。
番組のディレクターさんを通して連絡をくださった会長・社長とお会いしたのは、1999年のこと。ちょうどその夏、江ノ島水族館でさかなクンのイラスト展をやることが決まっていました。中学生の頃からプライベートで江ノ島水族館に通いつめ、お魚を観察したり、お魚のベストな飼育方法を聞いたりするうちに、飼育員さんと親しくなっていました。
その交流のなかで「うちでイラスト展をやってみない?」と声をかけていただいたのです。会長・社長にそのことをお話しすると、展示のための印刷や設営をすべてやってくださることに。嬉しいことに、展覧会は大盛況で、これがきっかけで雑誌の挿絵など、イラストを描くお仕事をいただくようになりました。これを皮切りに、お魚にまつわるさまざまなお仕事に関わらせていただくようになります。