ずば抜けて“カッコいい”は目指さない
谷口:コミュニケーション、コミュニティのデザインをしているということですね。会社を立ち上げた当時から、人が集まる場をつくっていくという方針に変化はないんですか。
西村:そうですね。うちの社長(朴正義氏)が2000年にバスキュールを立ち上げる時、実はセカンドライフのような空間をつくりたいと考えていたようです。多くの人が集まり、それぞれが主役になって、時間を共有できる世界をつくりたいと。
今もその想いは、変わっていなくてユーザー同士がコミュニケーションできて、しかもそれが嫌じゃない、居心地がいい場づくりを、その時々にある技術を使って実現しているのだと思います。
なので、バスキュールはカッコいいデザインをつくることを最終目標にしていないんです。デジタル上のコンテンツは、すぐに消費され消えていくと言われますが、私たちは「子供の世代にまで自慢できるようなコンテンツをつくっていきたい」と考えていて。
ただ皆が参加してくれて、後世まで残りさえすればいいというわけでもなく、「ダサいのは嫌だ」という美学があったので、結果としてデザイン関連のアワードでも賞をいただくような仕事ができているのだと思います。
谷口:バスキュールさんのつくるコンテンツは、カッコいいのに、どこか脱力しているというか、親近感があるというか。そういう印象を受けますね。
西村:それは、ずば抜けてカッコいいものを目指しているわけではないからだと思います。
ずば抜けてかっこいいものって、一部の人たちは評価してくれるかもしれないですけど、私たちは広告の世界で仕事をしているし、さらに最近はマスメディアであるテレビの方たちと連携してコンテンツを考えることが増えている。決して、デザインやデジタルのリテラシーが高い人だけを対象にしているわけではないので、ビジュアルだけてっぺんを目指したクリエイティブをつくっていても伝わらないなと思ってます。
その作品に触れた人たちのエモーションに刺さるか、コミュニケーションはそこに生まれているのか?を中心に考えています。
チームでつくるからこそ出る、重厚感
谷口:ここまで話を聞いていて、バスキュールさんと私のコンテンツのつくりかたは全然違うなと思いました(笑)。ラーメンで例えると、僕はカップラーメンでバスキュールさんはこだわりのラーメン屋さんっていうか。いや、そもそもラーメンに例えていること自体が、失礼かもしれないですけど。
要は私の場合は、大量生産型なんです。ローコストで大量にコンテンツをつくりたいと思っているので、バスキュールさんのように、つくりこむクリエイティブとは方向性がまったく違いますよね。ちなみにバスキュールさんには今、スタッフは何人くらいいるんですか。
西村:45人です。そのうち、約8割がエンジニアやデザイナーですね。彼らが参加して満足できる、達成感あるコンテンツにしようとなると、どうしてもつくりこんだものになっていくということがありますね。
谷口:私がつくるコンテンツは、3分間ぐらいで手軽に消費してもらいたいと思っています。
西村:そういうコンテンツも必要だと思います。
谷口:特定の記事がウケるかは保障できないので、多く出せば平均的な打率が出せると思ってとにかく連発して出しています。
西村:いや、コンテンツを出し続けられるってすごいことですよ。
谷口:ありがとうございます。一つひとつが小さいので、出し続けないと意味がないですからね。
バスキュール プロデューサー 西村真里子氏
最高峰のコミュニケーション企画力を武器に、チャレンジを続ける「バスキュール」の一員。IBM、Adobe、Grouponを経て現職。バスキュールの「視聴者が主役になる(マス×インタラクティブ)新エンターテイメント」の代表事例である「BLOODY TUBE」(2013年6月)、日本テレビ「JoinTVプロジェクト」、mixi Xmas「インタラクティブCM 小さなサンタクロース」などに関わる。
本記事の後編は、12月10日(火)に掲載します。「シェアされやすい感情、されにくい感情」、「滑らないためのリスクヘッジ」など、ユーザーを巻き込む参加型企画を実現する上での具体的なポイントについて言及します。