DATA(1) 各社企業IRの声
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明らかにアナリストの分析内容が間違っている場合、それを通告することも企業IR の役目。ベテランアナリストになるほど、そのアナリストレポートが世間に与える印象(ダメージ)は大きいため、企業側はレポート内容に敏感になって当然。今回とられた手段は最終手段だと思うが、直接通告を重ねた上で対応が変わらなければ仕方がないという面も大いにあると思う。
当アナリストとは一度だけミーティングを行ったことがあるが、正直なところアナリストはそんなに偉い人なの? と疑問を抱くような対応だった。楽天の行為は賛否両論あるが、アナリストの対応にも問題があったのではと個人的には感じる。
最初は会社側がアナリストを選べる立場ではないと反対だったが、双方の話を聞くと何年もの蓄積されたそれぞれの思いがあるようで、一概に反対とは言えないのかもしれないと感じる。
楽天のIR 担当はベテランで優秀。あのようなリリースを出せば、自社に対してどれほどのダメージがあるか社内で熟慮された上で、それでも発表されたことと思う。
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TDnetを使って個人を攻撃するような文書を公衆縦覧に供するような行為は間違っている。また、バリュエーション(本来の企業価値に対して、株価が相対的に割安か割高かを判断するための指標)を変更することなど、アナリストの世界では日常的な行為であり、それに対し文句を言うのはいかがなものか。過去にもアナリストに対し意見表明をした会社があったが、今回の行為は大人気ないと思う。
アナリストのレポートは、アナリスト個人の見解であり、企業側の要望を反映したレポートには違和感を感じる。
気に入らないアナリストを一方的に出入り禁止にし、その内容を否定するというコメントを出すという行為が既成事実になってしまうと、市場にはマイナスの影響となる可能性が高い。
そもそもアナリストレポートは、企業の意図通りに書いてくれるものではない。内容が気に食わないからと出入り禁止宣言を公表しながら攻撃するのは、あまりに大人気ない行動では。
DATA(2)企業IR担当が意識すること
公平で正確な説明と対応
<日頃意識していること>
■アナリストが何に興味、関心を抱いているのかをしっかりと見極めた上で話をするよう心掛けている。特に初めてミーティングを実施する場合は、Q&Aとは別として定量面、定性面のどちらに比重を置いて話を進めるのかを意識しながら対応している
■良くも悪くも、サプライズを小さくすることがIR担当者の役割。できるだけ客観的な視点で、自社の状況を分かりやすく正直に伝えることが重要。また、短期的に言えば業績へのインパクトは小さくとも、自社が描いている中長期の戦略について何度も繰り返し伝えていくことが重要。その際にはIR担当者の主観に偏らないように、できるだけ統一した表現、ワーディングを用いて説明するよう心掛けている。同時に、IR担当者は本来、アナリストや機関投資家から取材を受ける立場だが、できるだけ彼らの意見や描いているストーリーを聞くことも大切にしている。彼らのコメントは、資本市場の視線で、自社や競合を横断的に見た場合の評価なので、真摯に受け止めるとともに、機会があれば自社のマネジメント層などにフィードバックし、経営の参考にしてもらうようにしている
■守秘義務に留意し、可能な限りの情報を正確に外部に伝えてもらえるよう、説明に努めること。また、伝達する情報量や内容にアナリストの間で理解の差が出ないよう、必要に応じての補足説明をいとわないこと
■間違ったことを言わない。誤解を招くような表現を避ける
■まず、相手(アナリスト)を知ることを意識している(人柄、業界理解度、数値、何に重視して取材している人かなど)
■同業他社との比較を丁寧に説明するよう意識している
■決算発表後の個別取材のほか、リリースを出した際にポイント解説のメールを送るなど、自社を忘れないでいてくれるよう、定期的なアプローチを行っている。そこで、意識している点は次の3点。一つ目は「事前準備=先回り対応」。発表前にいろいろと想定した上で、発表資料の作成、取材対応のための情報収集や分析、社長をはじめとする経営陣との認識合わせなどを行っている。二つ目は、取材相手に合わせた受け答え。個別取材時には、質問から意図や自社への理解度を汲み取り、取材相手に合わせた回答をすることで、自社の戦略や取り組みについて誤解なく理解してもらえるよう心掛けている。三つ目は、リスクや悪い情報も隠さず伝えること。会社として認識しているリスクや悪い情報を伝え、それにどう対処しているかを理解してもらうことで、信頼性が高まると考えている。
<決め事>
■年4回(四半期ごと)はミーティングを実施できるよう心掛けている
■基本的に取材対応は複数で行うようにしている。事前に説明のトーンやニュアンスを確認しているが、すべてのアナリストに対して同じようなトーンで伝わるよう、内部けん制の意味でも可能な限り複数名で対応することを心がけている
■情報不足や推測でレポートを発行されることを避けるため、基本的に取材依頼を断らないこと。また、相手側の必要に対し、適時の対応をするため、四半期決算準備前のサイレント期間を除き、随時、面談・メール・電話の手段を問わずにコミュニケーションに努めること。そして、レポート内に事実誤認や誤記などのないことを確認するため、発行されたレポートの入手と内容確認を徹底すること
■うっかりを含め、万が一の情報漏えいを防ぐため、2人体制で面談すること。取材回数などに制限はかけていない。依頼を受ければ、電話・面談をサイレント期間以外は受け付けている
■同じ質問に対して答える場合、人によって話す内容が変わらないようにしている。広報・IR担当の横のつながりがあるように、アナリストや投資家もつながっていることが多々ある。ある人に話したことと別の人に話した内容が異なると、信頼がなくなりかねないので注意している。
DATA(3) アナリストが意識すること
長期的な関係をいかに築けるか
IR学会によると、近年アナリストレポートが定型化する傾向にあるという。長いレポートがなく、1ページのサマリーレポートが主流。それは、企業の情報開示が質的にも量的にも増加し、均等化したこと、またそれ以上に運用する側からのニーズで簡潔で投資アイデア主導型のレポートが求められ、短くなっているという背景もある。
「アナリストランキングはITバブル崩壊以降、顧客、発行体、証券会社における位置づけも変化しており、かつてのようにリスペクトされなくなっているように思われ、マスコミ的に扱われ方も縮小化している。こうしたことが、優秀な人が集まりにくい要因にもなっているのではないか、との見方もある」(「企業における非財務情報の開示のあり方に関する調査研究報告書」2012年3月発行より)。
投資家の投資判断に大きな影響を与えているのは、アナリストによる企業分析。現在、アナリストは、一人当たりのカバーする企業や業界の数が増加しており、その分析は企業の開示情報とデータベースを活用した定量的な財務情報の活用に頼る傾向があることが指摘されている。
このような状況下で、膨大な情報を無秩序に伝えても、アナリストから良い評価を得られない。影響力の高いアナリストに対し、自社の企業価値および成長性の裏付けとなる情報を相互に関連付け体系的に整理して、繰り返し説明すること。それによって、アナリストから的確な評価を得、中長期な視点に立った投資家の投資行動を促し、投資家と企業との関係を良好にすることが期待される。
・現場と経営の両方を把握し、ディスカッションしながらヒントを見出せる人。経営の方向性とバックボーン、コアコンピタンス( 他社に真似できない核となる能力)などの共有ができる人
・開示のレベル、タイミング、継続性などの点で姿勢にブレのない人
・経理の数値情報だけでなく、経営者に代わって答弁するという意識の高い人
・情報過多の時代、どの点が重要なのかを明確に提示し、積極的にディスカッションを重ねようとしてくれる人
・ 聞かれたことだけに答えるのではなく、周辺情報なども含めて、参考となる情報を出し渋らずに提供してくれる人