メタ行動がとれる集団が日本の組織に貢献できること
廣田:takramさんが「デザインエンジニアリング」の会社と名乗ることで生まれる、良いこととはなんでしょうか。
田川:端的に言うと、メタ行動がとれるようになることです。「デザイナーです」と言い切ってしまうと、エンジニアリング領域は扱えなくなってしまう。メタ行動がとれるメリットは、アンタッチャブルな領域を極力無くしていけるということですね。
廣田:でもクライアントさんは、別々の部署の方たちが複数出てくるんですよね。
田川:その場合、僕らは複数の部門の方たちとパラレルで話します。そして僕らがハブになりながら、両者をつないでいくということをします。また、最近多いのが中堅の企業の経営者から直接相談を受けるケース。経営者は基本的にメタ存在なので、僕らのメタ性と相性が良いですね。
廣田:普段、プロジェクトはどんなふうに進むのですか。
田川:僕らがよく使う思考のツールとして、「プロブレムリフレーミング」があります。つまりは問題の定義をリ・フレーミングするということなのですが、これは相手方が設定した問題がそもそも間違っているケースがかなりあるからなんです。
廣田:大きな声では言えないですけど(笑)。それ、よくわかります。
田川:アジェンダセッティングが間違っている、もしくは、合っているけど解像度が荒い場合には当然、僕らが出す回答も、そこに引っぱられてしまう。
でも実際にはデザイン部門の問題として受けた仕事だったけれど、話を聞いていると、社内の人事構造に原因があった・・・みたいな話はけっこうあるんです。そういった時、デザインの課題に固執せずに、効果の出やすい原因にターゲットを再設定し、回答を提示できるのも、メタ行動のメリットの一つですね。
廣田:僕たちのクライアントの企業さんも、多くが分業であるがゆえ、そのメタ視点が持てずに、同じような状況に陥りやすいと思います。広告会社にもクライアントの社内に入りこみ部門間をつなぐ、ファシリテーター的な役割も求められているのではないかと感じています。
田川:僕たちは、会社をつくった時には、ピュアにデザインとエンジニアリングの両方をやりたいと思っていたんです。つまりは「デザインand エンジニアリング」だったんですけど、最近の仕事は「Notデザイン or エンジニアリング」になっています。「and」の場合、2つの領域が重なる小さな部分だけが対象になりますが、「Not~or」だと全体が対象になる。
つまりは、デザインとエンジニアリングの2つをインテグレーションしていこうというのが、僕たちが今考えていることです。これはジェネラリストとは違うもので、専門家としての軸を2つ以上持っている必要があります。ある分野のスペシャリストと、スペシャリストとしての会話も持てるのだけど、同時に別のスペシャリストの視点から複眼思考で、客観的に、批判的に、相対化できる視点を持った人が必要だなと。そういう人の存在が課題を立体化させる上で役に立つのだと思います。(次回に続く)
※本対談記事のダイジェスト版を「ウェブ電通報」でも掲載。
この続きは、来週 12/26(木)に更新致します。
田川 欣哉
1999年東京大学工学部卒業。01年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。デザインエンジニアリングという新しい手法で、ソフトウェアからハードウェアまで幅広い製品のデザインと設計を手掛ける。07年Microsoft Innovation Award 最優秀賞、独red dot award: product design 2009など受賞多数。
廣田周作
1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。
【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
■takram design engineeringの田川欣哉さんに聞きに行く
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(前編)
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(後編)
■Sumallyの山本憲資さんに聞きに行く
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(前編)
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(後編)
■内沼晋太郎さんに聞きに行く
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(前編)
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(後編)※3月更新予定