『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』刊行記念特別対談③ サントリー食品インターナショナル北川廣一宣伝部長×福里真一「宇宙人ジョーンズは、なぜ生まれたか?」(2)

広告でやってはいけない3つのこと

福里:続いていくと、次にどんなCMが登場するのか、楽しみにしてもらえるのがシリーズのよさですね。その後は、オンエアするごとに反応がよくなり、4年目くらいになると広告業界の反応もよくなり、ACCグランプリを受賞しました。普通、広告賞では最初の年に評価されることが多いのでこれは珍しいケースだったと思います。

北川:宣伝部のメンバーには、常に広告の企画でやってはいけない3つのことを話しているんです。それは「アイデアがない」「予定調和」「既視感がある」の3つです。この3つを排除した企画を選ぶようにしています。

私たちが扱う飲料は100円前後の商品。極めて関与度が低いもので、熱狂的なファンをつくりづらい。だからこそ、広告によって好きになったり、嫌いになったりすることが、マーケットに大きな影響を与えます。ですから、広告自体も好きになってもらえる、愛してもらえることを大事にしています。

福里:案を見た瞬間に、いつも「これだ!」と決められるものですか。

北川:1回のプレゼンで決まるケースばかりではありません。3つも4つも持ってきていただいたけれど、なんとなく選びづらいな…という時には、1つひとつの企画に対し、褒めるところをひとつふたつ、気に入らないところを3つ、4つくらい伝えて、そこはかとなく「今回のプレゼンはよくなかったかも」と感じてもらったり。

福里さんのすごいところは、その次のリターンマッチで持ってこられる企画が、がらっと変わっていて、これならお客様もぐっと感じるよねというものになっていることですね。

福里:競合プレゼンにしようとは思わないのですか。

北川:これはサントリーのモットーなのですが、私たちは競合プレゼンはしません。冒頭でお話ししたように、広告とはお客様に対するラブレター。Aさんに相談しつつ、Bさんとも相談をしながらラブレターを書くのは、送る相手にも失礼だなと思うので。

過去に、競合プレゼンも数は少ないですがやったことはあります。でも競合プレゼンだと皆さん、広告の先にいるお客様のことを考えるのではなく、競合に勝つための企画を持ってきてしまうんです。

福里:「宇宙人ジョーンズ」シリーズは8年目になりますが、比較検討するために別方向の案を出してくださいと言われたことはないです。そういう意味で、任せていただけているという思いがあり、よりこの仕事に没入する気持ちが強まります。

つくり手側の立場でいえば、競合プレゼンの企画は、実現するかどうかわからない。目の前に必ず実現する仕事と実現しないかもしれない仕事の2つがあったら、どうしても前者の方を頑張ってしまいますよね。サントリーさんは「BOSS」も「伊右衛門」もCMを長く続けていますよね。

北川:CMは長く続けたいと思っています。ただ続けていく上では工夫が必要です。

ヒットしたCMは、お客様を恋人にすることができたということだと思うんです。では、恋人になれたら安泰かといえばそうではなく、次に相手は「プレゼント」を求めてきます。ある時は大物タレント、またある時はすごい音楽だったり、広告でも毎回、いろんなプレゼントを出し続けていかないと、シリーズは続かないなと思っています。

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福里真一(ふくさと・しんいち)ワンスカイ CMプランナー・コピーライター
1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。いままでに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」など。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを、数多くつくりだしている。

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