『あまちゃん』を観てるとカルピスが飲みたくなる?デザイン資産のつくり方

パッケージのメディア特徴は購買に近いことだ。パッケージを見る人は、商品の購入をその場で検討している人である。それだけ、販売促進におけるパッケージデザインの役割は大きい。パッケージデザインを手掛けるアイ・コーポレーションの小川亮氏に、優れたパッケージを紹介してもらう。

ここでは、『販促会議』2014年1月号に掲載された連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。
(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)


ドラマ『あまちゃん』が終わって2カ月が経つ。まだ数々の名シーンが心に残っている方も多いのではないだろうか。その中でもぜひお伝えしたいのが、憧れの先輩がヒロインのあまちゃんにプレゼントを手渡すシーンについて。想いを寄せる先輩からのプレゼントを受け取る、心躍るシーンだが、ストーリーはともかく、私はこのプレゼントのラッピングに注目した。

この水玉模様のラッピング、何かを連想しないだろうか?

カルピスの水玉模様が七夕にちなんだデザインであるというエピソードも、まさに『あまちゃん』の淡い恋心のシーンにぴったりだ。

そう、この模様は多くの人に、「カルピス」を連想させるに違いない。なぜなら、長年カルピスがパッケージデザインとして大切にしてきた“白地に青の水玉模様”そのものだからだ。

しかも、あまちゃんを演じた能年玲奈さんは、2012年から「カルピスウォーター」のテレビCMに出演している。

この、カルピスを連想させるラッピングデザインが偶然なのか、プロデューサーの“はからい”なのかは分からないが、能年さんと水玉模様が同じシーンに登場したことで、多くの人がカルピスを連想したことは間違いないだろう。

このように、パッケージデザインの持つ「記憶に残るデザイン要素」は貴重なブランド資産の一つだ。コカ・コーラの赤色、ヤクルトの容器の形状、永谷園お茶漬け海苔の定式幕など……ロングセラー商品のパッケージには、記憶に残るデザイン資産が存在する。こうしたデザイン資産はどのようにつくっていくものなのか。ステップは三つある。

まず、残すべき資産を決めること。商品担当者がデザイナーと相談して決めてもいいし、すでに長く売っている商品なら、ロイヤルユーザーを対象に調査を行い、何がその商品のデザイン資産なのかを絞り込んでも良い。

次に、そのデザイン資産に“名前”と“物語”を与えること。人は名付けられたものを大切にする。そして、物語があると人に伝えやすく、記憶ともつながりやすくなる。

例えば、「ティファニーブルー」と呼ばれるティファニーのブランドカラーは、土地や資産を記録する重要な台帳の表紙の色が採用されており、同社の商品が気高い存在であるようにという創業者の思いが込められている。

こう説明されると、かかわる人はこの色を大切にしたくなるものだ。事実、多くのロングセラー商品のデザイン要素には、特別な名前が与えられていることが多い。

最後は「変えないこと」だ。デザイン資産を人の記憶に残すには、長い時間がかかる。短期的に結果を出すことを求められるブランドマネージャーの道具として、大切なデザイン資産が頻繁に変更されないように、「変えてはいけない」という明確なルールを設けるべきだろう。

ちなみにカルピスの水玉模様は、発売日が7月7日の七夕だったことから、天の川の「銀河の群星」をイメージして作られた。そして、13年はカルピスが水玉模様をパッケージに採用してから95年目になる。この水玉模様には、それだけの思いと時間がかけられているのである。

■プロフィール
小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。


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