先週のコラム「RYAN、ニューヨークで起業家ジャーナリズムに出会う」に続き、今週もニューヨークで気づいたことをいくつかご紹介します。
あ、そうでした。「起業家ジャーナリズム」については反響が大きかったので、コースの運営者、ジェレミー・キャプランさんの講演動画を最後に付けておきますね。
ニューヨークでは、米国の同時多発テロの追悼施設「9/11 メモリアル」も訪ねました。施設内の公園には犠牲者の名前が掘ってある石版が並んでいたり、周りのレンガの壁には救助隊がガレキの中で作業する様子を描いたパネルが飾ってあったり――。
パートナーの手を握りながら、じっと空を見ている人は、涙を浮かべています。近くの展示スペースの階段をおりれば、赤、黄色、緑やブルーの千羽鶴。崩壊前の世界貿易センターの写真や、犠牲者の思い出の品が飾られているのです。
私は米国で小学校と中学校に通っていたとき、授業で先生があの「パールハーバー」をドラマチックに話していた姿を思い出しました。
良くも悪くも悲劇や争いを社会全体で「記憶」するのがうまい国だと思います。米国滞在中は、東日本大震災のことも、仕事の相手先や現地のマスコミ関係者に聞かれました。
「そのときどこに居たのか」
「あなたは何かしたのか」
「これからどうするのか」
――昼食でフライドポテトを食べているときの雑談でも、重いテーマがばんばん投げかけられます。私は取材で被災地に行き、国から東北の地方銀行側に復興予算がわたったものの、復興事業の遅れで銀行にお金が滞留していることを記事化したことを伝えました。
また、日本では被災地に図書館を作ろうなどの呼びかけがネットでおこなわれ、クラウドファンディングが広まるきっかけになったことを話しましたが、仕事以外で、個人として震災をどう受け止めたかは、うまく答えられなかったのを覚えています。
先週のコラムでご紹介したニューヨーク市立大学が2011年から関わっている「VOICES Of NY(ニューヨークの声)」は、悲劇の記憶をどう乗り越えようかというテーマを掲げています。
「LATINO(ラテン系)」「BLACK(アフリカ・カリブ系)」「ASIAN(アジア系)」など米国の異なったルーツの人たちが所属するコミュニティーの何種類ものニュースを集め、わかりやすく紹介するサイトです。
オバマ大統領の同性愛政策をユダヤ系メディアはどう報じているか、など読めるのがおもしろい。地元のジャーナリストや行政関係者に見てもらい、「町の中で起きている社会の課題」を発見するのに役立ててほしいという思いもあるようです。
特に同時多発テロ以降の米国では、「隣のイスラムの人が何を考えているかわからない」「白人社会とはわかり合えない」という宗教・人種間の不信がうずまいているとも聞くので、地域社会に役に立っているように思えました。
こうしたカタい企画などが、大もうけする事業になるとは思えませんが、メディアがビジネスをする場合、「公共の利益」の追求も大事なブランディングになります。違う立場や人種の読者コミュニティー同士がつながることで、新しい市場や消費者が見つかることもありそうです。
「小さな台所」のサイトが人気
「公共の利益」と大げさなことを言いましたが、要するに、文章や動画や絵を発信することで、世の中を暮らしやすくしようという試みではないでしょうか。もともと「新聞」というビジネスモデルがそういうものですが、「big girls small kitchen(ビッグガールズたちの小さな台所)」という、フリーランスライターの女性が運営しているサイト(2008年開設)も話題になっていました。
「小さな台所」に悩んでいる人のための料理レシピを載せたウエブサービスで、場所を取らない調理器具の紹介や、残り物の野菜を包んで楽しく作れるタコスの調理法などがエッセー風に書いてあります。
日本の住宅は、海外では「せまい」「ウサギ小屋」と皮肉られているという話もありますが、ニューヨークの家も小さい。向こうに住んでいる友人に聞けば、家賃が高すぎて、「It sucks(ひでぇところだぜ)」ということばが返ってきます。
「big girls small kitchen」は、悪い住宅事情ながらも、ちょっとした工夫で生活をたのしめるという一種の問題提起、批評になっています。
インテルと組んで「キッチンで退屈しない方法」という動画をつくるなど協力企業やスポンサーもついています。日本の新聞も「料理」は優良コンテンツですが、「小さい台所向けレシピ」にまでターゲットを絞っていません。