日本に根付く?起業家ジャーナリズム
ところで、1月からニューヨーク市立大学には、朝日新聞メディアラボの井上未雪が派遣されています。記者出身のメンバー。小学校6年生の卒業文集に書いて以来、記者にあこがれ、1990年代のコソボ紛争後に、「メディアによって戦争は止められるか」というテーマで2000年にニューヨークへ留学。
同時多発テロの時、現場近くまでカメラを持って行き、街を撮影しながら歩きまわり、朝日新聞のニューヨーク支局に写真を持ち込みました。
政治家のヒラリー・クリントンの選挙時にインターンもしました。その後、韓国に留学しています。見た目はおっとりした女性で、私はこのコラムを書くために経歴を初めて「取材」して驚いたのですが、いまの20代、30代の「何が何でも社会と関わりたい」という思いは、「自分探し」と皮肉られようと、非常によく分かります。
新聞社の試験はいちど落ちて、大学卒業後は東京三菱銀行(当時)に就職しますが、あきらめきれず、再び試験を受けて2003年に朝日新聞社に入りました。メディアラボに来るまでは、名古屋市に住み、河村たかし市長の減税政策を約3年間追いかけていました。
ニューヨーク市立大学は取材と執筆だけではなく、経営学や資金調達を学び、起業家と記者を組み合わせた「起業家ジャーナリスト」を育て、今までにないニュースビジネスを生み出す場。相手を取材して、紙に文字を書いて世の中に訴えること以外の手段――たとえばウエブサイトを立ち上げる、動画を発表する、ツイッターで問題提起する、アプリを作成する――を模索しています。
井上はいま、米国の寒波の中、家さがしだけで泣きそうになっていますが、「プライベートで紛争地にボランティアに行く会社の先輩を見てきたが、技術とツールが増えて記者の取材方法や社会と関わる方法が増えた。米国のノウハウを学んですぐ生かしたい」と話しています。
取材と経営(起業)の両者の折り合いをどうつけていくかも試行錯誤したいそうですし、技術は幼くても、「ニューヨークの声」や「小さな台所」のように、人の生活に訴えるアイデアがポイントなのかもしれません。
東京工芸大専任講師の茂木崇さんは朝日新聞社発行の雑誌「Journalism」の2012年12月号で、ニューヨーク市立大学を紹介しつつ、次のように書いています。
成熟した既存のジャーナリズム組織は仕事のプロセスが確立し、高コスト体質にもなっているため、イノベーションを起こすのには適していない。むしろ、小規模な独立組織が新規の市場で破壊的技術を活用するほうが、新たなジャーナリズムを作り出すのに適していると考えられる。この点で大学は思う存分実験を積み重ねるのに最適の場である。
茂木さんは「日本にも『「起業家ジャーナリズム」教育のコース設置が必要だ』とよく話しています。日本の学科や学部で、実験をされている先生や学生が読者の中にいらっしゃいましたら、いろいろと教えてください。
冒頭でお伝えしたニューヨーク市立大学、ジェレミー・キャプランさんの早稲田大学講演動画(早大大学院政治学研究科ジャーナリズムコース作成)は次の通りです。私も何回も見てしまいました。
①日本語
②英語
③パネルディスカッション